第2話:ゴブリンの集落
「ってなんだお前ら!」
目が覚めると、目の前に緑色の気色悪いサルみたいな生き物が。
「ロード目覚めた!」
「ロード、ついに目覚めた!」
「わー」
その目の前のサルみたいな生き物共が、グギャグギャ言ってるが悲しいかなその内容が理解できてしまう。
なんだよこれ。
なんのドッキリだよ。
てか、俺一般人だよ。
「ロード、俺たちを救ってくれる」
「ロード、俺たちの王!」
「ロード、助けて!」
何が助けてだ。
というか、どこだよここ。
くっせーな。
「ロードどうした?」
「いや、臭い」
「臭い?」
「鼻が曲がりそうなほど、くっせーんだよ!」
「ひいい!」
「ロード、怒ってる」
「臭い! 臭い! どうしたらいい!」
「どうしたら?」
なんだよ、こいつら!
くそっ……
俺が怒鳴ると、一気に距離をとって地面にひれ伏しているが。
悪いやつらじゃないのかもしれないが……
てか、誰か説明……ん?
ふと横に視線を落とすと、見慣れた鞄が。
俺の鞄じゃねーか。
なんでこんなところに。
ああ、一応出向だから持たされたのか?
とりあえず、鞄を開ける。
コンビニで買ったサンドイッチとパン、それからプロテインが入った袋がある。
他には……紙の束が入ってるな。
鞄に入っていた紙の束を手に取る。
なになに?
***
この世界の人間が調子乗って、魔物を狩りまくってる。
とりあえず、最初にゴブリンが絶滅するから防いでね。
人もゴブリンも世界規模でみたら、大して変わらないから。
むしろ自然の摂理の中で生きてて、環境破壊も人ほどしないから。
古き良き時代の田舎の人みたいな、そんな感じ。
ごめん、言い過ぎた。
野蛮なところもあるけど、まあなんとかして。
人の勢力圏をこれ以上増やされると、色々と不都合があるからさ。
取り合えず、ゴブリンロードにしてあるから。
万が一失敗して死んでも、どうにかしてあげる。
けど、職務放棄して死んだら、助けてあげないから。
ナビゲーターとして、ジャッキー君付けといたから。
秘書みたいなものだと思っといて。
呼んだら来るよ。
頑張ってねー。
BY魔神・マジーンより
***
「……」
マジーンって。
なんて雑な。
つっても、目の前のこいつらがゴブリンか。
ゴブリンねー……作り物には見えないけど。
とりあえず、ジャッキー君ってのを呼べばいいのかな?
「ジャッキーさん?」
声を掛けてみる。
目の前に突然黒い炎が巻き起こったかと思うと、中からそれはそれは恐ろしい黒い狼が。
ええっと。
「初めまして佐藤さん。マジーン様よりお話はお伺いしております。この度は、ご愁傷さまと言いますかなんと言いますか」
最初から、ずいぶんなご挨拶だな。
とてもじゃないけど、そんなこと言えないけど。
「何をするか分からないと思いますが、まあゴブリンの数を増やしつつ人との均衡をとれるようにして落としどころを見つけてください」
「いや、言ってる意味が」
「できることは沢山用意してありますので。配下のゴブリンのステータスを見たり、いじったりとか? ちなみに今は、ここに80匹ほどのゴブリンがいますよ」
「そうなんですか?」
「近いうちに、人の冒険者がこの集落を潰しに来ますけどね」
オウ……
いや、そこで何もせずに殺されたら、助けてもらえたり。
「そんなに強くないので、真面目にやればまず負けませんよ? 真面目にやれば」
チッ、考えてることを読まれてるっぽい。
てか、人の頭とか簡単に噛み砕きそうなでかい狼が、普通に話しかけてくるのは違和感しかない。
それ以前に、俺は何で狼なんかとくそ真面目に会話しようとしてるんだ?
くそっ、意味が分からん。
ゴブリンどもは、怯え切ってさらに距離とってやがるし。
「とりあえず、あなたの味方はゴブリンです。人じゃないので、そこはお間違えの無いように。言語に関しては、この世界の言葉は全て分かるようにしてあります。それと入れたものが綺麗に整頓されて、時間経過もなく、取り出しやすいものがすぐに取り出せる、無限に物が入るような便利な鞄はありませんよ?」
「えっ?」
「一応、神器の中には無限に物が入る袋とかはありますけどね。時間は経過しますし、そもそも鞄に無造作に入れて勝手に整理されるなんて、魔法でも無理でしょう。普通に考えたら分かりますよね?」
「何を言ってるんだ?」
「いやいや、そういうの貰えて当然って思ってる方が、最近多くて。時間停止はともかく、その時間を再度起動させるのとかどうするんだって話で。鞄の中だけ時間停止ってなると、何かしらの燃料がいるわけで……まあ、時間が制止した世界に繋ぐ方法はあっても、どうやって取り出すんですかね? 取り出そうと手を突っ込んだところで、中の時間は止まってますから何も掴めませんよ。腕を抜くまで」
唐突に、意味の分からないことを言い出した。
「劣化しないという意味であれば、熱量保存や防腐、防汚の魔法を掛けてから鞄に入れたらいいのですが。中身の整理までは無理なので、とりあえず魔神様のビルの空き部屋に繋いだ鞄を渡しておきますね。まあ部屋なので容量に限界はありますが、あとはご自身で整理されるかお金を払って倉庫番を雇ってください」
誰も、物を保管することに関して、そこまで執着してないのだが。
というか、他にもっと説明することがあっただろう。
だいたい、目的がふわっとしすぎだ。
「ということで、大事なことは説明し終わったのでこれで失礼しますね。あと、基本的に17時にはあがりますので、それ以降は緊急時以外は呼び出さないでください」
「はっ?」
「そうだ、時計渡しときますね」
「はっ?」
「じゃあ、頑張ってくださいねー!」
そういって、目の前の狼はまた炎を纏って消えた。
そして手元からピピッと、短い電子音が聞こえる。
気付けば腕時計が巻かれていた。
その画面には、17:00と表示されていた。
くそが!
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