35.フェンリル

『我の要件を言おう』

「要件?ああ、最初にちょうどよかったとか言ってたな」

『ああ。先ず1つ目。俺のところに魔王の手先。もしくは魔王本人が来た』

「俺たちがしょっちゅう会ってることがばれたのか?」


俺とどんな関係なのかを探りにでも来たのだろうか。


『いや、実際のところはわからないが話していた感じお前のことすら気づいていなさそうだったぞ』

「そうなのか?結構派手に動いてたと思うんだが」

『向こうの関係者を全て殺してるだろう?恐らく邪魔者がいるくらいの認識だろうな」


・・・そういえばそうだった。目についていた敵はすぐに攻撃してからな。

あれ?


「斥候的なのはいないのか?」

『いたんじゃないか?例えば・・・少し離れたところにいる敵とか』

「・・・そういやいたな。逃げようとしているのかと思ってた」


今思うとそういう奴は皆軽装だったな。

今後も存在はばれないように頑張ろう。


『で、魔王の要件だが元は仲間に引き込もうといていたらしい。ただ、我が魔王たちの情報を持っていたことやめたみたいだな。邪魔をするなという警告だった』

「結構穏やかなんだな」

『ああ。そういえばあの者の態度は少しおかしかった。友好的ではなかったのだが、敬意は感じられた』


フェンリルが言うには生粋の武人か、なにか事情がある奴のどちらかということだ。


「まあ、現時点では何もわからなさそうだな。特に目的とかも話してなかったんだろ?」

『ああ。で、2つ目だ』


フェンリルが変に緊張した感じできりだした。


『我は少し外に出ようと思う』

「お、引きこもり卒業か。楽しんで来い」

『・・・それだけか』

「なんだ?泣いて引き止めてほしかったのか?」

『い、いや。そういうわけではないが、今後は色々教えられなくなる』

「?別にお前にその義務があるわけでもないし、俺は時間をかければわかることを近道して知ろうとしていただけだ。だからまあ・・気にしなくていいぞ」


まあ、時間かかるくらいなら知らなくていいけど。


『・・・そうか。それなら次会った時ように何か調達しておいてやろう』

「変なのはいらないぞ」

『わかっている』


本当だろうか。変なことを言いながら変な物を渡す絵が目に浮かぶようだ。


「あの・・・魔力を供給してくれるのはありがたいのですがそろそろ止めていただかないと」

「『あ』」


完全に忘れていた。まあ長時間やったし魔力も回復しているだろ。

そう思って見ると・・・白くなってた。


『・・・おいクロト。我はこんな種族知らんぞ』

「・・・俺も」

「一応我々シャドウの間で噂は聞いたことがありましたが・・・存在していたのですね」


シャドウはそんなことを言って感傷に浸っている。


『存在は知っていたのか?」

「はい。聖なる影といって勇者によって生み出されるシャドウです」


…?魔王だぞ、俺。


「あなたは勇者…ではないですね」

「ああ、どうなってんだ?」

『これに関してはよくわからんな。お前、本当に魔王なのか?聖獣も従えてるし』

「…よくわからんし、どうでもいいや。で、お前はどうするんだ?」

「少しやり残したことがあるのでそれを終わらせたいと思います。それから、終わった後にもう一度お会いしてもよろしいでしょうか」

「いいぞ。俺は基本的にウィーン帝国にいるから」

「わかりました。ありがとうございます」


シャドウはそう言うと影に消えていった。


「あれどうなってんだ?《転移》ではなさそうだけど」

『我にも詳しいことはわからん。まあ座標を設定して飛ぶのが《転移》で、何らかの方法でマーキングしてそこに飛ぶのがシャドウの移動だな』

「ふーん。じゃ、俺もそろそろ帰るよ。そういえば名前ってあるのか?今まで聞いてなかったけど」

『・・・あるぞ。アースフェルだ』

「そうか。またな、アースフェル」


そう言って《転移》する。

次はいつ会えるだろうか。


アースフェル視点


「またな、アースフェル」


名前を呼ばれたのはいつぶりだろうか。

今まで会った奴は皆恐れるか、美味い汁を吸おうとする者ばかりで名前など聞かれたことは無かった。

本当に魔王なのだろうか。シャドウ云々もそうだし、心根がまるで魔王ではない。シーアとも少し話たが、よく気を使われているらしい。

さっきも多分使われた。勇者だと言われたほうが納得がいく。


子孫でもできたらクロトの事を語り継いでもらおうか。

まあ嫌がるだろうから名前は伏せよう。あいつが気づいたらなんて言うんだろうか。

…そろそろ行こう。

次に会う時は何に遭遇しているのだろうか。

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