第10話 小学1年生 女子

 朝、学校に行くと、机の中に見たことのない黄色いノートが入っていた。

 お名前ペンで「こうかんにっき」と書いてあった。

 私は交換日記って何なのかわからなかった。


 誰かのノートが間違って入っていたのかと思った。

 それで、中を見たら鉛筆で何か書いてあった。


『みよりちゃん、きょうからこうかんにっきをしようね。すきなものおしえて』


 私は困ったから隣の席の子に聞いてみた。


「こうかんにっきって何かな?」

「わかんない」

 隣の席のまりなちゃんは言った。

「好きな物教えてっていうからサンタさんじゃない?」

「あ、そっか」

「じゃあ、クリスマスに欲しい物書けばいいんだ」


 その日記が入っていたのは、12月の最初の頃だった。


「もしかしたら、欲しい物くれるかもしれないから書いてみれば?」


 私はノートにこう書いた。


『クリスマスには、しろいフワフワしたいぬをください』

『もっとなかよくなったらあげるね。みよりちゃんはいぬはかってるの?』

『ママがだめっていうからかってないよ。うちはマンションだから』

『じゃあ、マンションでかえるいぬをもっていくね』


 ***


 12月24日夜。みよりちゃんの家に知らない男の人がやって来た。

 眼鏡をかけた35歳くらいの男だった。うつむき加減で挙動不審。

 薄汚れた服を着て、手には100サイズくらいの段ボールを持っていた。


「お届け物です。みよりちゃんに頼まれて」

「何でしょうか」

「クリスマスプレゼントです」

「え?どちら様ですか?」

「みよりちゃんの友達です」

「どこのですか?」

「学校の・・・」

「生徒さんのお父さんですか?」

 参観日などでは見た記憶がなかった。

「はい」

 変な人だけど、クラスメイトの父親なのかと思うとほっとした。

「どなたの?」

「まなべつとむです。」

「はぁ・・・これは・・・」

「僕からのプレゼントです。みよりちゃんに渡してください」

「ありがとうございます」

 箱を受け取ると、中身が何も入っていないかと思うくらい軽かった。

 なぜかぞっとした。

 お母さんはとりえあず、男にお礼を言った。


 段ボールの箱は部屋に持ち込まないことにしていたから、玄関で箱を開けた。

 中身は空気だった。つまり、何も入っていなかったということだ。


「気持ち悪い」


 だから、娘には言わなかった。


「ママ、今、サンタさん来た?」

「来なかったよ」

 母親はごまかした。「ママが頼んだ荷物が来ただけ」


 みよりちゃんは、その夜サンタさんに犬のことをお願いしながら眠った。

「犬をもらえますように」


 みよりちゃんはなかなか眠れなかったが、普段、9時に寝かされていたから、深夜にはぐっすり寝入っていた。

 

 ハアハアハア

 クンクンクンクン・・・

 ハアハア・・・


 夜中、みよりちゃんの顔の側で、犬がハアハアいっているような息遣いがした。


「あ、犬だ」


 みよりちゃんは、嬉しくなって布団を捲った。


「さあ、おいで」


 すると、犬は布団に入った。

 異常な大きさで、まるで大型犬のシェパードみたいだった。

 犬は毛むくじゃらの手をみよりちゃんにかけた。


 ***


 次の朝、母親が起こしに行くと、みよりちゃんは頭の上から布団をかぶっていた。


「みより!サンタさんからプレゼント届いてるよ」


 お母さんは優しく声を掛けた。

 しかし、反応がない。

 どうしたんだろう・・・寝起きは悪くないはずなのに。


「さあ、起きよう!」 

 

 布団から体を揺すった。

 何だか様子がおかしかった。

 固い。


 布団を捲ると、青い顔をしたみおりちゃんが現れた。

 そして、首が変な方向に曲がっていた。


「ギャー!!!みより!!!みより!!!」


 お母さんは叫んだが、もう、二度と目を開けることはなかった。 

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交換日記 連喜 @toushikibu

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