交換日記
連喜
第1話 小学5年生男子
朝、学校に行ったら、机の中に黄色いノートが入っていた。
タイトルのところに『交かん日記』と書いてあった。
交換日記っていうのは、友達とかの間でノートを回して、それにコメントを書いていくものだ。今までやったことはない。こういうのは、女の子がやるものだし、やろうと思ったことはない。
僕は小学校5年生。彼女はいないし、もてないし、僕と交換日記をしたいという人がいるなんて驚いた。
ノートを開いてみた。すごくきれいな字で、シャープペンシルで書かれていた。
『礼音君。今日から交かん日記をしようね。礼音君のこといろいろ教えてね』
僕は何を書いていいかわからないけど、もしかして、僕が好きな女の子が書いてくれてるかもしれないと思った。僕が好きなのは、ミクちゃん。バスケをやってる子だ。明るくて、運動神経がよくて、かわいい。僕はミクちゃんだったらいいなと思って書き込んだ。
『よろしく。君は誰?』
次の日学校に行くと、机にまた交換日記が入っていた。
『私は森のようせいだよ。名前はないの。つけてくれる?
礼音君が好き食べ物は何かな?』
僕は返事を書いた。名前を付けるのは難しい。僕は自分のセンスに自信がない。
『いい名前が思いつかないけど、ふなっしーでいいかな。
好きな食べ物は、銀だこのたこ焼き。食べ物は何が好き?』
翌日、ふなっしーから返事が来た。
『素てきな名前を付けてくれてありがとう。銀だこはふなっしーも大好きだよ。好きな食べ物は、水ゼリー。
じゃあ、好きなげいのうじんはだれ?』
『好きなげいのう人はカズレーザー。誰が好き?』
『平野しょうが好きだよ』
僕はイラっとした。
ジャニーズが好きな女の子はみんな大きらい。
『究きょくの選択。平野しょうと僕が池でおぼれてたらどっちを助ける?』
『どっちも助けない。自分もおぼれちゃうから。
礼音君はお母さんとふなっしーが、池でおぼれてたらどっちを助ける?』
『どっちも助けない。両方きらいだから』
それから、交換日記は来なくなった。
僕のお母さんは、去年のお盆に、海で溺れて亡くなったんだ。
でも、僕はお母さんが溺れていることを誰にも知らせなかった。
お母さんはいつも僕を怒ってた。無理やり塾に行かせて、行かないとおやつと小遣いをくれない。成績が悪いと怒られた。僕はお母さんが大嫌いだった。
去年、海に行った時、僕は遠くまで泳いでいった。1歳からスイミングに行かされて、泳ぎは得意だった。お母さんは僕を心配して、追いかけて来た。滅多に運動しないから、途中で溺れてしまった。僕は砂浜に戻ったけど、お母さんのことは知らないと言った。お母さんは、そのまま遠くに流されてしまった。死体は沖の方で見つかったそうだ。
その交換日記は、お母さんが書いていたんじゃないかと思う時がある。
***
担任の先生は、ため息をついてノートを閉じた。
クラスで孤立している、礼音君が何を考えているか知るために、交換日記を思いついたのだが、あの子に心を開かせるのは無理だと悟った。
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