第3話 中二病との出会い 2


 腕をクロスさせてこちらに自信満々な表情を向ける神宮寺さん。

 彼女は微動だにせず、こちらの返答を待っているようだった。


「は、葉月明人です。よろしくね神宮寺さん」


 神宮寺さんは、俺の返答に満足したかのように腕を下ろし頷いた。


「うむ。汝の事は知っておるぞ!現し世の虚像と電子の遊戯を好むのだろう?」


「あー、うん。アニメ鑑賞とゲームが趣味だね。神宮寺さんもアニメ好きなんだっけ?」


 以前クラスメイトと話をしている時にアニメが好きだと言っていたはずだ。

 確か深夜帯のアニメが好きなんだっけかな?


「汝!我の言霊が分かるのか!?我も現し世の虚像は好んで見るぞ。時に葉月よ、汝のオススメの作品はあるか?」


「オススメの作品かぁ。やっぱり断罪の黒騎士シリーズかな。セリフの言い回しも良いけど、戦闘シーンがかっこよくて──あれ?

聞こえてる?」


 こちらの話に対し、惚けた表情を浮かべる彼女。

 顔は確かにこちらを向いているが、どうも目線が合わない。

 そんな彼女は我に返ったように小声で呟き始めた。


「......うちん言葉ば理解してくれとー?しっかりと返事してくるーし。しかも断罪の黒騎士シリーズが好きって言いよった......」


「神宮寺さん、大丈夫?」


 彼女は、こちらに聞こえるか聞こえないか分からないような声でぶつぶつと話している。

 どうやら自分の世界に入ってしまったようだ。

 時折聞こえてくる言葉の端々ふしぶしから察するに、普段の言葉遣いと異なっているように感じた。

 もしかしたら、普通の会話も出来る人なのかもしれない。


 そんな中、神宮寺さんは自分のひそひそ声を吹き飛ばすような勢いで声を上げた。


「見つけた!」


「え?」


「見つけたぞ!我が盟友葉月、いや盟友明人よ!」


 彼女は何かを決心したような顔でこちらを指差している。


「め、盟友?友達ってこと?」


「うむ。我は長い間探していた。我の言霊を理解し、我のオーラと波長の合うものを!故に明人よ、我の盟友になってはくれないか?」


 これはお友達になってくださいって事かな?

 俺自身も神宮寺さんと話してみたいと思っていたし、彼女をもっと知れるチャンスだ。

 断るなんて選択肢はないだろう。


「分かった。神宮寺さんの盟友?になるよ。これからよろしくね」


 彼女は大きな瞳を見開き、ぱぁーっと嬉しそうな表情をした。


「おぉ!我の盟友になってくれるか!嬉しいぞ明人よ。それなら汝も敬語を使わなくて良い!親しみを持って呼び捨てで呼んでくれてもかまわないぞ」


「呼び捨て? それじゃ神宮──俺の事を明人って下の名前で読んでたから、花子かな。よろしくな!花子!」


 俺は満面の笑みで彼女の名前を呼んだ。

 俺自身も新学期が始まってから友達が出来ず、少し寂しかったのだ。

 早い段階で隣の席、それも神宮寺さんと友達になれて良かった。

 そんな事を考えながら彼女の顔を見る。


 すると、先ほどの笑顔はどこに行ったのやら、彼女は眉をピクピクとさせていた。


「わ、我の事を花子と言ったか......?」


「言ったよ。どうした花子?」


 彼女は俺の言葉を聞き、ふるふると震え始めた。

 そして、聞いたこともないような喋り方で声を上げた。


「は、恥ずかしいけん花子ってゆわんで!うちん事は神宮寺って言うて!!」


 彼女は口をプクーっと膨らまして、上目遣いでこちらを睨んできた。


 なんだその顔は。なんだその方言は。

 俺にとって稲妻が落ちたような衝撃だった。

 あの自信満々な表情の彼女が、中二病全開の喋り方をしていた少女が、今声を荒げて方言で話している。


 なんだか見てはいけないものを見てしまったような気がした。

 それと同時に、彼女の秘密を知れたようで嬉しくもあった。


「ごめん、花......神宮寺。これからは気をつけるよ」


「う、うむ。我が盟友明人よ。これからよろしく頼むぞ!」


 両者の間で固い握手が結ばれる。

 きっとこの時からだろう。

 俺と神宮寺の物語が始まったんだ。



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