水着でヤンデレ発動するのやめてください……
時は少し流れて日曜日。
球技大会の日まで、着実に近づいているがそれはそれ。英気を養うことは大切だ。
身体を休め、来るべき決戦の日にベストコンディションで臨めるように整えることもまた、大事な戦略なのである……ま、俺は他のやつらと違い、ほぼ努力はしていないのだが。
さて話は変わるが、俺は現在買い物のために外出し、とあるショッピングモールに来ている最中である。
時間はまだ午前と、夜型人間の俺としては早い行動時間であったが、これにはれっきとした事情がある。
それは買い物に来ているのは俺ひとりってわけじゃないってことだ。
もっと言えば、俺がなにか欲しいものがあって外出しているわけじゃない。
雪菜とアリサ、幼馴染二人の買い物に付き合うためにこうしてはるばる電車に乗り、モールまで来ているというわけだ。
幼馴染たちがアイドルになる前だったらさして珍しい休日の過ごし方ではなかったが、人気も出てふたりがアイドル活動で忙しくなってからは、こうして三人で出かける機会も大分減ってしまった。
その埋め合わせというわけではないが、ふたりの休みが被った時はなるべく一緒の時間を過ごすことを心掛けている。
今回の買い物も、その一環というわけだ。だが、今回はいつもの買い物とは少し違う。
「カズくん、これはどう? 似合うかな?」
「アンタがこういうのがいいって言ったんだから、ちゃんと見なさいよね。で、どうなの?」
それは現在、幼馴染たちによる俺限定の水着ファッションショーが行われているということである。
「うんうん、似合ってるぞ。やっぱ素材がいいよなぁ。二人とも、実に素晴らしいスタイルだ。幼馴染として誇らしいぞ」
「やった、カズくんに褒められちゃった♪」
「アンタはなんでそんなに偉そうなのよ……まぁ、別に嬉しくないわけじゃないけど」
雪菜は嬉しそうに笑顔を浮かべ、アリサは恥ずかしそうに目をそらしているが、俺としては眼福としか言いようがない。
二人ともビキニタイプの水着を着用しており、雪菜はピンクを基調としたオフショルダー、アリサは首元が交差している黒のクロスホルダータイプである。
雪菜は可愛さを、アリサはちょっとアダルトな魅力を引き出しており、甲乙つけがたいとしか言いようがない。
どちらが好みかと問われても、俺はどっちも好きだと答えるだろう。
「ちなみにカズくんは、アリサちゃんと私の水着だとどっちが好み?」
「どっちも好き。ていうか、ビキニが好きだ。露出は多ければ多いほどいいに決まってるからな!」
「和真、アンタ自分に正直すぎでしょ。いやまぁ最初から言ってはいたけど、少しは遠慮しなさいよね……」
実際、二人にどんな水着を着たらいいか聞かれた俺は、ビキニと即答した。
ワンピースタイプも嫌いじゃないが、谷間が見えるほうがいいに決まってると男なら誰でも答えるだろう。俺は自分が間違っていないと信じている。
「露出が多い方がいいって言うなら、これも着てみよっか?」
言いながら雪菜が取り出したのは、新しい水着だった。
一応ビキニのようだが、ぱっと見面積はかなり少ない。
実際に着てみた場合、かなり際どい感じになるんじゃないだろうか。
「え、ちょっと雪菜。その水着は流石にまずいんじゃ……」
「でもカズくんが喜ぶならアリかなって。どう、カズくん。これ着てみたほうがいいよね?」
確かにそれは大変嬉しい申し出である。俺としても是非見てみたいし、着てくれるというのなら断る理由などどこにもない。
「いや、それはいいや」
だが、俺は敢えて首を横に振った。
まさか断れるとは思っていなかったのか、雪菜は水着を持ったままキョトンとしている。
「え、なんで……もしかしてカズくん、私に興味なくなっちゃったの? 私のちょっとえっちな水着姿とか見たくない?」
「そういうわけじゃなくてさ」
「なんで? なんで? なんで? 私ってそんなに魅力ない? そんなことないよね? だって私良くスタイルいいって褒められるよ? アイドルになってからレッスンだって頑張ってるし、私もスタイル自信あるもん。カズくんだってそう思うよね? だって私のおっぱいよく見てるじゃない。あ、もしかして、アリサちゃんと比較しちゃってる? そういうの、良くないなって思うな。カズくんはどうせ私たち二人に養われるんだし、この先もずっと一緒なんだから、差なんて付けちゃめっ、だよ。それに私だってまだ成長中なんだからね? アリサちゃんに敵わないじゃないよ。将来はまだ分からないんだから。あ、そうだ。カズくんが私のおっぱい揉むとかどうかな? そうすれば大きくなるかも。それにカズくん好みの女の子になれるかもしれないよ。ううん、絶対そうなるよ。だって私の何から何まで全部、カズくん専用だもん。なら、カズくんの好みに合うようにならないはずがないもんね。カズくんはどう? そんな女の子は嫌い? 男の子にとってすっごく都合がいい女の子が目の前にいるんだよ。それでも頷かないんだったら、私ちょっとどうかなって思うよ。あ、でも誤解しないでね。私がカズくんを嫌いになるなんてあり得ないから。カズくんが好きだから、カズくんにも私のことを好きになってもらいたいだけなの。勿論、カズくんは私のことを嫌いじゃないなんてことくらい分かってるけどね? でもその気持ちを行動でも現わしてくれると、もっと嬉しいなって。私の言いたいこと、もう分かるよね? つまり私とカズくんは運命で繋がっているから、何を見せても恥ずかしくなんてないし、なんでも見せてあげちゃうよってことなの。恥ずかしくなんてないよ。だって私はカズくんを愛してるからね。カズくんだってクズなところを、私に包み隠さず見せてくれているもんね。それって、私のことを心から信用していないと出来ないことじゃない? あ、分かった。私分かっちゃったよカズくん。そういうことだったんだね。カズくんは単に照れてただけなんだ。ふふっ、カズくんも男の子だもんね。大丈夫、分かってるよ。男の子ってそういうところあるもん。可愛いなぁカズくん。そんなカズくんも大好きだよ。私は全然問題ないからね? 受け入れてあげるから。どんなカズくんだろうと、ね? うん、これで何も問題なくなったよね。じゃあ早速着替えるから。なんなら、カズくんも一緒に更衣室に入る? そうすれば、カズくんも私の魅力に気付いてくれるよね。ね? ね? ね?」
…………あの、雪菜さん。お願いだから水着でヤンデレワード連呼しないで下さい。
斬新すぎるしシチュエーション的にも反応に困るんですけど……。
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