あれ、もしかしてフラグ立った……?

「完璧だったな。さすが俺だぜ」


 うんうんと頷きながら、ひとり廊下を歩く俺。

 変なやつらに絡まれはしたが、会議からは離脱できたしなによりやる気があるクラスの情報を期せずして入手出来たことは運が良かったと言っていいだろう。


「三年A組と一年B組要注意と分かったのは収穫だな。とりあえずクラスのやつらには俺たちが優勝を狙ってることは口止めを「クズ原っ!」しとこう……って、うん?」


 今後のプランを組み立てていると、背後から呼び止められる。

 振り向くと、そこには猫宮がいた。走ってきたのか、少し息を切らしているのが見て取れた。


「フゥ、フゥ……や、やっと追いついた……」


「おい、廊下を走るなよ。高校生にもなって禁止されてることをするのは恥ずかしいぞ」


「ク、クズ原がひとりで先に行くから……こっちは書類提出とかやることあったのに、勝手に帰るなし……」


 あ、そういえばしておく必要があったな。あの状況であの委員長に渡すとか嫌だろうにちゃんとやっておいてくれるとは、相変わらず真面目なやつだ。


「それはサンキューな、助かったわ」


「言い方が、軽い……フゥ、クズ原がそんなんだから、ウチが見ておかないとダメなの、分かってんの?」


「別に見ててくれなんて頼んでないし、この性格は生まれつきだ。猫宮がなんて言おうが、俺は俺の好きなようにやる。そもそも今回狙っているのは優勝だけだ。そのために俺は動く」


「……本当に優勝出来るの? 実行委員長とか一年生もやる気のクラスがあるみたいだけど……」


「問題ない」


 不安そうに聞いてくる猫宮に即答する。


「あいつらは所詮推しにいいところを見せたいと目先のイベントに向けて張り切っているだけだ――そんなやつらに、生涯働かないために動いているこの俺が負けるはずがない」


 こっちはそんな地点、とっくの昔に通り過ぎてる。

 見てるものがそもそも違うのだ。推しのアイドルにいい恰好したいワンコ同士、せいぜいじゃれ合えばいい。

 俺はその間に勝つためにやることを済ませるだけ。アイドルのために頑張ろうとする連中が、アイドルに貢がせている俺に勝てる道理なんざひとつもない。


「……クズ原ってさ。よくそんなことを堂々と言えるよね。普通絶対言えないよ。働きたくないとか養ってもらいたいなんて……」


「何も恥ずかしいことじゃないからな。俺から言わせてもらえば、将来働くことを無条件で受け入れているやつらのほうが信じられん。周りがなんと言おうが、俺は絶対働きたくないし、遊んで暮らすためにはなんだってやるぞ。なんだってな」


「……それでアリサたちのコスプレ写真まで持ち出したの?」


「ん? ああ、あれか。やる気を引き出すためのエサとして必要だったからな。実際、効果抜群だったろ?」


 あれで男子連中は露骨にテンションが上がったからな。

 思春期男子らしい見事なアホっぷりだが、扱いやすくて助かった。


「抜群って……クズ原は、罪悪感とかないわけ? あの子たちはきっとアンタだから写真を……」


「それは勘違いだな。俺があいつらの写真を渡すわけがないだろ」


 なおも突っかかってこようとする猫宮を制し、俺は言う。


「え……」


「あいつらは俺のものだ。雪菜とアリサで美味しい思いをするのはこの俺だけでいい」


「それってつまり……」


「MVPは俺が獲る」


 あいつらではないが、好感度をあげるチャンスをみすみす逃す手もない。


「……また大口叩いて。ダメだったらどうするのよ」


「そうならないために動くのがこの俺だ。何も考えなし動くやつらとは違う。猫宮はいいから俺がすることを見とけばいいのさ」


 俺が自信たっぷりに言い切ると、猫宮は俯いた。

 顔は見えなかったが、やがて大きくため息をつく。


「……もういい。クズ原にはなにを言ってもどうせ無駄だし。そんなの分かってた。だから」


 何故か俺の制服の裾を掴む猫宮。そして、


「勝手に先に行くな。せめてウチの目の届くところにちゃんといろ。この馬鹿」


 上目遣いで、そんなことを言ってくるのだった。

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