こいつら、チョロいぜ!

 さっきまでの喧騒が嘘のように、静まり返る教室。

 だがそれも一瞬のこと。誰かが息を呑んだ音が聞こえたかと思った次の瞬間、クラスメイトたちは一斉に咆哮する。


『な、なにぃっ! 雪菜ちゃんとアリサちゃんの、ネコミミメイドだとぉっ!?』


 響く怒号。それは今日一番の勢いと大きさを伴って、文字通りクラスを震撼させていた。


「ど、ど、どういうことだ。そんなものが存在していていいのか!?」


「お、おい俺にも見せてくれよっ!」


「うおおおおおおおおお!!! マジだ、アリサちゃんたちのネコミミメイドだああああああああああああああ!!!」


「わ、わたくしにも見せてくださいませっ! ふぉ、ふぉおおおおおおおおおおおお!! これは確かにお二人の、お二人のおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 多くの男子と一部の女子が佐原の机へと殺到し、写真を見て歓喜の雄たけびをあげている。

 それぞれ興奮した様子を隠そうともしていないが、その様は釣り堀で餌に集まる魚のようである。

 浅ましいクラスメイトたちを見下ろしながら、俺は佐原が持っている写真を取り上げる。


「ほい、もういいだろ。これは俺のだし、没収な」


「あ……!」


 名残惜しそうに手を伸ばす佐原と周囲の男子たちだったが、俺は特に気にすることもなく写真を懐へと収める。

 もう写真は役割を果たしたからな。これ以上サービスをする必要はない。


「お、おい葛原。それは一体……」


「ん? これか? この前、お前らの要望に応えて雪菜たちのコスプレ写真を撮ってきたことがあったろ? 皆のリクエスト以外の衣装や組み合わせで、色々コスプレ撮影をやったんだよね」


「はぁ!? お前、そんなことやってたのかよ!?」


「ずるいぞ!? そんなのお前言ってなかったじゃないか!」


「そりゃ言う必要なかったからな。あの時お前らだってそれぞれ自分のリクエスト通りの写真貰って満足してたろ? 俺は感謝の言葉しか聞かなかったし、他の写真もあるのかなんて聞かれてないんだから答えようがなかった。違うか?」


 貰うもんは貰ってるわけだし、取引は成立しているだから俺にだって責められる謂われはない。


「違わ、ないけど……」


「なんか納得いかねぇ……」


 ぶつくさと文句を呟くやつらであったが、所詮そこ止まりだ。

 自分たちにも落ち度がある以上、どうしたって攻め手に欠けるからな。


(ま、とにかくこれで興味を惹くことには成功したわけだ)

 

 仕込みは終わった。俺にとってこれからが本番だが、もはや勝利は手中にあると言っても過言ではないだろう。

 俺は計略の成功を確信しながら、なんでもないことのように話を続ける。


「ただまぁ……この写真、皆に渡さないわけではないんだけどな」


『え!? ほ、本当か!?』


 ほら、食いついた。


「そもそも、こんなお宝写真を四六時中持ち歩くはずないだろ? どうせお前らのことだから、これくらいの報酬がないと動かないことくらいは想定済みだ」


「つ、つまり……球技大会に参加すれば、それを貰えるっていうことなのか!?」


「ま、そういうことになるな」


 俺が頷くと同時に轟く歓声。

 モチベーションが高まったようでなによりである。


「ただ、これはあくまで参加賞。おまけみたいなもんだ。さっきも言ったが、俺の目標はあくまで優勝。そのために、俺は報酬を惜しむつもりはない」


「え、まだ上があるんですの!? ネコミミメイド以上のものとは……まさかっ!?」


 衣装提供者である伊集院には察しがついたようだな。

 今度は俺が、伊集院の望み通りのものを提供してやることにしよう。

 俺はその言葉に大きく頷き、


「優勝した暁には、俺の秘蔵のお宝写真――生足ミニスカ巫女さん衣装の雪菜と、ガーターベルトを履いた銀髪シスターアリサを提供しよう。さらには大会MVPを獲得したやつには、バニーガール姿の雪菜とアリサ。さらにおまけとして、サキュバス衣装を身にまとった二人の写真をくれてやることを、今ここに約束する」


 言い終えた途端、声にならない歓喜の渦が、教室を包み込んだ。

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