多数決って少人数だと不公平だなって思うの

「どうしたいきなり。人の部屋で騒ぐなんて行儀が悪いぞ」


「あ、ごめん……じゃなくて! なんでボクバニーなんて着てるのさ!」


「なんでって、そりゃ自分で着たからだろうが。よく似合ってるぞ」


「そんなこと言われても嬉しくないよ! むしろいつの間にか着ていた事実がとにかく怖い! こんなの一種のホラーじゃないか!」


 肩をいからせてまくしたててくる夏純だったが、バニーガール姿だとどうにも迫力に欠けると言わざるを得ない。

 肌にピッタリと張り付いてる黄色のバニースーツが身体のラインをくっきりと浮き上がらせているし、俺からすればただただ感服な光景である。


「ちょっ、なに見てんだよぅ。そんなに見るなよぅ」


 俺の視線に気付いたのか、恥ずかしそうに身体を隠す夏純だったが、生憎ともう遅い。

 そのバニーガール姿はこの目にハッキリと焼き付けたからな。やっぱりバニーは最高だぜ。


「やっぱりバニーは最高だぜ」


 大事なことなので二度言った。

 気持ちを口にすることは決して恥ずかしがることではないのである。


「い、言わなくていいから! くそぅ、こんな恥ずかしい衣装着るつもりなんてボクにはまったくなかったのに、なんでこんなことになってるんだよぅ。絶対おかしいだろ!」


「そう言われてもなぁ。夏純が着替えることに同意したのはルリも見てただろ?」


 とはいえ、このままでは話が進まないのもまた確か。

 俺はベッドにバニーガール姿のまま寝そべりながら漫画を読んでるルリに話を振ることにした。


「ん? ああ、はい。バッチリハッキリ見てましたよ。夏純センパイはこれでキャラが強くなるって喜んでましたねー」


「わたしも見ておりました。夏純様がご主人様に同意して着替えたことは間違いないないかと」


 いつの間にか部屋に来ていた姫乃も、ルリの言葉に同意する。

 あっという間に三体一の構図が生まれたわけだが、こればっかりは仕方ないだろう。

 恨むならあまりにチョロかった自分自身を是非とも恨んでもらいたい。


「そ、そんな……立花ちゃんに一之瀬さんまで……」


 自分と同じ格好をしたふたりのバニーに否定され、慄く夏純。

 もはやこの場に自分の味方になる人物はいないと悟ったのだろう。

 そんな可哀想な同級生の肩に、俺は優しく手をかけた。


「さて、これで言質は取れたな。俺以外からもこう言われたら否定のしようもないだろ。夏純の意志でバニーガールになったということで間違いないってわけだ」


「う、ううぅぅ」


「だっていうのに、お前は俺のせいにしたよな? キャラが弱いことを気にしていたようだから、ちょっと助言してやったっていうのにサ」


「そ、それは」


「俺って信用ないんだなァ。悲しいなァ。こんなんじゃ、相談に乗ったところで意味ないんだろうなァ」


 一度言葉を区切りる。

 そして、


「相談に乗るの、やめたほうがいいかもなァ」


「え、そ、そんな!? こ、困るよそんなの!? ボク、本当に困ってるんだ! 相談できるのは、クズ原くんしかいないんだよ!」


 大げさにため息をつく俺を見て、慌てる夏純。

 さっきの行動で分かったことだが、やはりコイツは予想外の出来事が起こると露骨にテンパる癖がある。

 そうなると思考停止に陥るのか、こちらの誘導に容易く乗ってくれることも理解した。

 要するにこのギャルは、とってもチョロい子の可能性が高い。その確信を得るべく、俺は夏純に質問してみることにした。


「でも、バニーでいるの嫌なんだろ?」


「そんなことないよ! ボク、実はバニー大好きだったんだ! いくらでも着れちゃうもん! ホラ、ギャルバニーだぴょん! ぴょんぴょん!」


 目をぐるぐるさせ、ヤケクソ気味で飛び跳ねる夏純を見て、俺は内心笑みを浮かべた。

 もはや間違いなかった。この状態の時の夏純は、人の話にノリやすい。

 このギャル、間違いなくチョロい。


(コイツ、使える……!)


 それが分かっただけでも大収穫だ。相談内容にもよるが、高い確率で夏純を味方につけることが出来る可能性が出てきたことが、俺の心を躍らせる。

 幼馴染たちによる監禁を防ぐための味方が、今はひとりでも欲しいところだからな。

 クラスメイトであり、アリサの友人である猫宮のグループに所属していることも、俺にとっては大きなメリットだった。


「うむ、実にいいバニーさんっぷりだ。ナイスだぞ、夏純」


「あ、ありがとぴょーん!」


「やっぱりバニーって素晴らしいなぁ。相談の後で撮影会もしたいんだが、構わないよな?」


「も、もちろんだぴょーん! もうどうとでもなれぴょーん!」


 うんうん、実にいい返事だ。

 俺は希望が見えた事実と、トリプルバニーの撮影が出来ることに胸を躍らせながら、飛び跳ねる夏純をしばし見つめ続けるのだった。

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