シュレティンガーのバニーガール
迎えた翌日。
時計の針が午前十時を過ぎた頃、我が家のインターフォンが鳴らされた。
本来ならまだ寝ている時間帯であったが、俺はその音にすぐに反応し玄関へと向かい、ドアを開ける。そこにいたのは予想通りの人物だった。
「よう、おはよう夏純。よく来たな」
「あ、うん。おはよう、クズ原くん」
軽く挨拶すると、向こうも挨拶を返してくる。
昨日から引き続き私服姿の夏純を見ることになったが、着飾っているわけでもないラフなファッションだ。
別に気合を入れてきて欲しかったわけでもないから問題ないし、彼女には似合っていると思う。
「早くから呼び出して悪かったな。今日は雪菜たちに朝から仕事が入っているみたいだったからさ」
「いや、まぁうん。それはいいんだけど……」
言いながら、夏純が口ごもる。
なるべく明るく話しているつもりだったが、どうも反応が芳しくないようだ。
胡乱げというか、まるで有り得ないものを見たかのような表情をしている。
警戒でもしているんだろうか?
「えっと、話が長くなりそうだったから家でしたほうがいいかと思ったんだが。やっぱ俺んちに呼んだの、迷惑だったか?」
「……いや、ていうかさ」
「ん? どうした?」
「あのさ。後ろのふたり、なに?」
指差す夏純に釣られるように振り返る。
するとそこには、抜群のプロポーションを惜しげもなく披露した、赤と青のふたりのバニーガールの姿があった。
「なにって、見ての通りアイドル級の美少女バニーガールがふたりいるだけだが?」
「どうもー。カワイイアシスタントアイドルのレッドバニー一号でーす♪」
「同じくカワイイアシスタントメイド、ブルーバニー二号でございます」
「あ、これはどうもご丁寧に……ってそうじゃないでしょ!? なんでバニーさんがクズ原くんの家にいるの!?」
笑いながら手を振るルリと、無表情で頭を下げる姫乃。そんなふたりを見て驚く夏純。
三者三様の反応を見せていたが、俺からすればルリと姫乃のバニーガール姿はまったくもって眼福な光景だ。
どちらもアイドル級の美少女とあって容姿もスタイルも圧倒的だしな。
少なくともこのふたりを目にして気分が悪くなることなんて、俺にはありえん。
「そりゃ我が家の門をくぐった美少女はバニーガールになるという掟があるからだ」
「どういう掟!? クズ原くんの家どうなってるの!?」
「現在両親は海外に出張していてうちにいるのは俺ひとりなんでな。よって俺がルールだ。誰にも文句は言わせん」
「マイルールかよ! もうちょっと自嘲しなよ! 親が帰ってきたら怒られるよそれ!」
「ちなみにルリは面白そうなので来ました! ちなみにバニーはカワイイから着ました! カワイイは正義なので!」
「わたしはご主人様から呼び出されたので、お嬢様の看病を放ったらかして参上しました。ちなみにこの家ではメイドはバニーを着るものだと言われたので着ております。いぇーいお嬢様見てるぅー」
「キミらキミらで自由すぎだろ! なんでそんなの楽しそうなの!? 訳わかんないよ!?」
割って入ってきたふたりにツッコミを入れる夏純。
実にナイスなタイミングで紹介をしてくれたふたりに感謝しつつ、俺は持ってきていた一着の衣装を前に掲げた。
「というわけで、夏純もこのイエローのバニースーツを着てくれ。三色バニーを揃えたいからな。きっと似合うぞ?」
「なにがというわけだよ! 着ないよ! あんな話の流れで着ると思ったのかよ! 馬鹿じゃないかキミ!」
「だが着ないということは美少女じゃないということになるぞ。それでいいのか?」
「よくないよ! ないけど、どんな判別方法だよ! 美少女だったらなんでバニー着ないといけないんだよ! 相談しに来たらバニー着ることになったとか聞いたことないよ!!!」
ぜぇぜぇと息を吐きながら、まくしたてる夏純。
むぅ、駄目か。ルリはこれでイケたんだがなぁ。
見た目はギャルだというのに常識的なやつである。
中々ツッコミがキレているし、もう少し頭を使って攻めるべきかもしれないな。
そう思いながら、俺は口を開く。
「なんだ。お前、自分を美少女だと思ってないのか? 安心しろ。夏純はちゃんと美少女だよ。俺が保証する」
「い、いきなりなにを……」
「実際可愛いと思うぜ? そう、クラスでいうと……」
言いながら、俺はクラスメイトたちの顔を思い浮かべた。
アイドルである幼馴染の雪菜とアリサ。お嬢様の伊集院。メイドの姫乃。それに猫宮や委員長。
様々な女の子たちが、脳裏に次々と浮かんでは消えていく。
皆が皆、一様に美少女だった。というか、ほぼ美少女しかいなかった。
「…………」
「ク、クラスでいうと?」
「クラスでいうと……」
難しい。実に難しい問題だった。
だが、一度口にした手前、答えは出さなければならない。
どこか期待した目で俺を見てくる夏純に、俺は告げた。
「うん。夏純、お前はうちのクラスでは五、六番目くらいに可愛いと思うぞ。良かったな! やったね!」
「殺すぞ」
出した結論を口にした途端、俺は胸ぐらを掴まれた。
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