同級生は見た!

 話し終えたルリは頬を膨らませ、あからさまに不機嫌そうな様子を見せていた。

 ライブの時も一瞬見せたあの表情だ。それを間近で見たことで、俺は踏み出す覚悟を決める。


「……もしかしてだけど。ルリはそれで、雪菜たちを恨んでたりするのか?」


 これはルリと知り合って以降、ずっと気になっていたことだった。

 自分の容姿に対する絶対の自信。それは間違いなくルリのアイドルとしての根幹であり、築き上げてきたプライドとも言える部分だ。

 それに基づく前向きさと明るさはアイドルとしては十分プラス材料になるものであり、ルリの天性の魅力でもある。


 ――だが、そのポジティブさが悪意へと変わったとしたらどうだ。


 本来は自分が座るべきだったはずの位置に、自分以外の誰かがいる。

 そのことが許せないと思い、なんらかの方法で蹴落とすことを虎視眈々と狙っていたとしたら。

 そう考えると、俺はルリに聞かざるを得なかった。

 らしくないほど真っ直ぐに、俺はルリの目を見据え、問いかける。


「俺に貢いでくれようとしている理由も、それに関係しているのか」


 確かに俺は金が好きだ。

 金があれば一生働かずに遊んで暮らせるのだから、嫌う理由なんてどこにもない。

 死ぬほど好きだし、多分死んでも好きだと思う。それは間違いない。

 だが、だからといって、金のために幼馴染たちを傷付けることに加担したいなんて思っちゃいない。

 金を貢いでくれるのは嬉しいが、それ以前にあいつらは俺にとって大切な幼馴染でもあるのだから。


「?いえ、全然違いますけど。恨むってなんでです?」


「え」


「だって『ダメンズ』は普通に人気出てるじゃないですか。確かにセンターじゃなかったのは残念に思ってますが、それはそれっていうか。結果的に露出度は上がってるので、結果オーライって感じですね」


「いや、でも。今日のライブの時とか、なんか不満そうだったし……」


「あれはルリよりセツナセンパイたちのことを真っ先にカワイイとか言うからですよぅ。態度に出ちゃったのは良くなかったって思ってますし、触れないでくださいー!」


「お、おう。そうなんだ……」


 なんだろう。思ってたのと違うというか、凄いまともかつドライな答えが返ってきたんだが……。

 もしかして、ルリって結構プロ意識高い?


「嫉妬とか、ルリ的に全然カワイくないことしたって反省してるんですぅ。おにーさんは変な勘違いしているようですが、そんなことするくらいなら、もっともっとカワイくなって自分の実力でセンターを掴み取ります。そのほうがユニットのためにもなるしルリのステップアップにも繋がるんですからね」


「そ、そうなんだ。プロ意識高いっすね」


「ふふん、当然です。これくらいはカワイサオブリージュ、すなわちカワイイアイドルとしての義務ですから」


 鼻を鳴らし、ドヤ顔をさらすルリを見て、俺は肩の力が抜けていた。

 どうも俺は、このルリというアイドルのことを見誤っていたらしい。


「そもそもですね、おにーさんは多分勘違いしてます。ルリは別に目立ちたいとかチヤホヤされたいとかでアイドルやってるわけじゃないんですよ」


「え、そうなの?」


「はい。ルリってほら、カワイすぎるじゃないですか。だから昔から皆にチヤホヤされてきたんですけど……ある時ふと思ったんです」


 そう言うと、ルリは物憂げな表情を浮かべ、


「こんなにカワイイルリのカワイさを知らずにいる人が、世の中にはたくさんいるんだなって。そして知らないまま歳を取っていくなんて、とっても可哀想じゃないですか」


「お、おう」


「だからルリはアイドルになってあげたんです。アイドルはルリにとって、いわば慈善活動なんです……カワイく生まれてしまった、ルリの罪滅ぼしなんですよ。あぁ、カワイさは罪……」


 悲しみに満ちたセリフを吐きながら自分を抱き締めるルリだったが、その顔は明らかに自分に酔っていた。

 罪とかなんとか言ってるが、ここまで自己愛が極まってるとそんなもん全く気にしてないのが丸わかりである。


「とまぁそんなわけで、ルリはもっとカワイくなる必要があるんです。おにーさんも協力してくださいね♪」


「随分変わり身早いなおい」 


 ケロッとした顔でそんなことを言ってくるルリ。

 さすがの俺もそろそろ疲れてきたんだが。


「てか協力とか言われてもなぁ。俺は一切働くつもりは……」


 聞きたいことは聞けたし、今日はこのへんでお開きにするのがベスト……。


「とりあえず百万円あげます」


「とりあえず話を聞こうじゃないか」


 差し出された分厚い封筒。

 金だと考える前に体が瞬時に反応し、思わずガッチリ受け取ってしまったのだが。


「葛原、くん……なにしてるの?」


「え」


 思わぬ声に反射的に顔をあげる。すると。


「か、かすみ……?」


 そこには昼間『ダメンズ』のライブでも会ったクラスメイト。夏純紫苑の姿があった。












 

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