たまには真面目な話もありかなって

「貢がれるだけなら、それで良かったんだけどなぁ」


「監禁されるんですっけ。ホント面白いことになってますよね、イベント盛りだくさんじゃないですか。羨ましいですくらいですねー」


「俺としては全然まったく面白くないんだけどな!」


 他人事だと思いやがって。こっちとしてはたまったもんじゃないだぞ。

 あの時のダークオーラをまとった二人は未だ夢で見るくらいトラウマだ。


「くそう、嫌だ。俺は監禁なんてされたくない! 夏休みは遊びまくって貢いでくれる女の子を増やしまくるつもりだったのに、なんでこんなことになってしまったんだ……!」


「そういうクズなこと考えてるからじゃないですかねー。完全におにーさんの自業自得ですもん。多分近いうちに刺されるんじゃないですか? 入院で済んだらいいですね!」


「笑顔でなんてことを言うんだお前は」


 それはあまりにも物騒すぎるし洒落にならん。


「まぁまぁ。元気出してくださいよおにーさん。ルリもおにーさんに会えないのは嫌ですし、出来るだけ協力しますから」


「ほんと頼むぞ。今はルリだけが頼みなんだからな!」


 幼馴染たちがヤンデレ化した今となっては、同じ『ダメンズ』のメンバーであるルリこそが、文字通り俺の命綱である。

 いくら顔がニヤついたまままだったり、面白がっているように見えてもこの繋がりだけは切るわけにはいかない。


「お任せあれ! ルリとしてもセツナセンパイたちに対して有利な状況を作るのは望むところですからね!」


 だが、そんななかであっても見逃せないものはある。


「……なぁ、ちょっと聞いていいか?」


「ん? なんです?」


 首を少し傾けて、不思議そうな顔で見てくるルリに、俺は以前から気になっていたことを聞いていた。


「ルリはその、雪菜たちに対して、なにか思うところでもあるのか? センターになりたいって言ってたよな」


 それはルリと知り合った当初から気になっていたことだった。

 なにかと雪菜とアリサに言及してたり、センターへの拘りを垣間見せることが多かったルリ。

 俺の質問を受け、「んー」と唇に指を当て、考え込むルリの表情はあどけなく、含むものを感じさせないが、内心が仕草に表れるとは限らない。

 気のせいならそれでいい。だが、もしルリが俺の幼馴染たちに悪意や敵意を持っているというのなら……そのときは、彼女との付き合い方を考え直す必要があるだろう。

 そんなことを思っていると、ルリは唇からゆっくりと指を離した。どうやら考えがまとまったようだ。


「ちょっと聞きたいんですが。おにーさんは、『ダメンズ』がどうやって結成されたか知ってますか」


「いや……詳しくは知らないし、聞いたことはないな」


 雪菜たちからは四人組ユニットとしてデビューすることになったと結成当時報告されたが、それ以上のことは深く聞かなかった。

 そのこと自体に興味がそれほどなかったのもあるが、単純に幼馴染たちのアイドルデビューが決まったことの喜びが大きかったからだ。

 あの時は雪菜たちの一緒にひと晩中騒いだし、自然と流してしまった話題だったように思う。


「そうですか。じゃあ話しますが、『ディメンション・スターズ!』は大手芸能事務所から独立した社長さんが立ち上げたアイドルユニットです。ルリたちは社長さんにスカウトされて事務所に所属することになった、所謂アイドル候補生というやつでしたね」


「ふむ、なるほど」


「まぁルリのカワイさだったらスカウトされて当然だったんですが、そのことは一旦置いておきましょう。さて、当時のルリはカワイさを振りまきながらデビューに向けてレッスンに励んでいたわけですが、ある日社長さんから言われたんです。『四人組のアイドルユニットの立ち上げを企画しているから、そのメンバーのひとりになってくれない?』って。ルリはそのお誘いに、どう答えたと思います?」


「どうって、はいって答えたんじゃないのか? 現に今ルリは、『ダメンズ』に所属しているわけだろ?」


「まぁ最終的にはそうなんですけど、過程はちょっと違うんです。ルリはソロデビューを希望していたので、最初はユニットを組むつもりなんてなかったんですよ」


「へぇ。そうだったのか」


 それは意外……でもないか。

 これまでの言動から、この子の自我が相当強いのは明らかだしな。

 ユニットを組むより、ソロでの活動を希望していたとしても納得がいく。


「じゃあなんでユニットを組んだんだ? なんらかのメリットを提示されたとか、そこら辺か?」


「察しがいいですね。その通りです。渋るルリに、社長さんはまずこう言ったんです。『今度立ち上げるユニットは、メンバーのビジュアル重視で作る』と。そう言われたら、揺らがざるを得ませんでした。だってルリはカワイイですからね。悩んだ末、ルリは『ディメンション・スターズ!』に入ることにしたんです」


「なるほどな……」


 さすがアイドル事務所の社長さんというべきか。誘い文句をよく分かってる。

 ルリのように容姿に自信がある子にその言葉は、かなりの効果があったことだろう。


「とはいえ、引け目もありましたよ。ルリはカワイすぎるから、他の子は引き立て役に回っちゃうだろうなとか考えて申し訳なくなりましたしね……でも、ここでひとつ誤算がありました」


「誤算?」


「ええ……ねぇおにーさん。今の時代、人気アイドルになるために必要なものってなんだと思います?」


 ピンとグラスを指で弾きながら、ルリがそんなことを聞いてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る