第9話 おっさんの脱毛が始まった。

臨時給付金で10万円が支給された。


妻が脱毛器を購入した。

Amazonなどで、家庭用の数万くらいのものを買うと思っていたが、

僕は妻という存在を甘く見ていた。


彼女が狙う脱毛器は、業務用だった。

たくさんの小規模エステがコロナによって縮小しているということを聞き、

彼女は業務用の中古品がフリマサイトに出品されることを読んでいた。


彼女の予想は当たった。

流石に10万円とはいかなかったが、定価300万円近いイタリアDEKA社製の業務用脱毛器を30万円で落札した。


この脱毛器、そこまで大きくなくて、複合機プリンターより少し大きいくらいのサイズであり、ギリギリ自宅でも使えるサイズであった。


彼女は元々脱毛サロンに通っていて、脇や腕など目立つ場所の脱毛は終わっていたが、背中や足の指など細かいところも脱毛したいと思っていたが、妊娠・出産を経て脱毛サロンに通うのがめんどくさくなったらしい。


脱毛器が届くと、彼女は脱毛に必要なジェルを楽天で大量に買った。

脱毛用のジェルって高いと思っていたが、実は大したことない。

10キロで2,000円出せばお釣りがくるらしい。


そして、我が家でのホーム脱毛サロンが始まった。


最初はてっきりセルフでやるものだと思って、対岸の話と思っていたが、

彼女の希望する頸や背中は誰かがサポートしなければできない部位。


我が家には乳飲児と僕しかいない。

必然的に僕が彼女の背面脱毛の担当者となった。


ジェルを塗って、光が強いためサングラスをかけて、部位に脱毛器を充てて照射するだけの簡単な作業のはずが、これがなかなか難しい。


ジェルは透明だし、どこまで光をあてたか分からなくなる。

ただ、迷っている素振りが妻にバレるとマウントを取られてしまうので、

適当でも、なるべくそれっぽく施術をした。


鋭い妻にそこさっきから同じところを当ててない?と言われたことがあった。


それに僕は、毛穴が黒いから集中して打っていると誤魔化したが、彼女の機嫌は更に悪くなった。僕は女心を掴むのが苦手なのだろう。


彼女のホーム脱毛を3回行ったくらいで、僕は脱毛機器の扱いにそこそこ慣れてきた。そして暇だった。

せっかく磨き上げつつあるスキルを披露したくて、妻を誘うも、毛周期の関係で同じ部位は2週間空ける必要があるらしい。


なんとなく、脱毛をしたくて仕方なかった僕は、

とりあえず自分の脇毛を剃り、ジェルを塗り、脱毛器をあててみたのだった。

効果があるかどうかは定かではないが、軽く輪ゴムで弾いたような感触があったので、成功だと勝手に感じていた。


その後、暇なおっさんの深夜の脱毛は見境がなくなる。


両脇、髭、腕、腿、脚、そしてVIO・・。

2年が経った今、、髭は少し残っているが、体毛のないオジサンが出来上がっていた。


VIOは同じ脱毛器を使う妻が嫌がるので、彼女が風呂に入っている間や、子供と散歩に出ている時間を見計らい、目を盗んでセルフ施術をした。


コロナが落ち着いている期間に僕が友人と温泉に行った時に、無駄に体毛がなくなっていることに友人たちは驚き、遊んでるねえ!と、僕を仕切りにからかった。


確かに遊んでいるのだが、僕は自宅でひっそりと脱毛器で遊んでいるだけであった。


まさか、安倍元首相も、臨時給付金で、体毛が無くなったおっさんがいるなんて夢にも思わないだろう。


とりあえず、政府からいただいた10万円(妻のだけど・・)

僕の体と心に残り続けます。


ありがとう。安倍政権。

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