朝風呂
「んっ、んんー」
目が覚めると、そこは見知らぬ天井だった。
立派な木材に高価そうな壁紙。何度か瞬きを繰り変えず内に、この場所がどこなのかハッキリと思い出す。
あっ、そういえば烏真さんの家泊まりに来てたんだ。
ただ、どう言う事だろう。いつもの寝起きとは、まるで何か違う。そのフカフカで肌触りも最高な布団のおかげか、頭から首まで丁度良い固さで包み込んでくれる枕のおかげか。何とも言えない心地良さと、全身がやけに解放感に溢れているという感覚。
ただその理由が分かるのに、そこまで時間は掛からなかった。
あっ……流石に今日はあいつら布団に潜り込んで無いのか。
必ずと言って良い程、毎朝隣にいるであろう2人が今日は居ない。腕の軽さはそのせいだった。
よいしょ。
なんて、軽い体を起き上らせると辺りはまだ薄暗かった。カーテンを開けていないってのもあるだろうけど、スマホで確認した時間もそれなりに早い。
いやぁ……昨日は遅くまでドンチャン騒ぎだったもんな。
一月さんとの話を終え、おはぎに舌鼓を打っていると、女子3人がお風呂から上がって来た。そして始まったのが、地獄のトランプ大会。
烏真さんの家にはパーティーゲームが数多く有り、ゲーム機なんかもバッチリ揃っているそうだけど、なぜか3人はトランプにこだわっていたっけ。
いやもう、それからは正直思い出したくないよ。ババ抜きやら大富豪やらスピードやら……あらゆるゲームをやっていた気がする。しかも3人共テンション高く、お菓子とジュース片手にやりたい放題。
んで俺は、途中で眠くなりダウンした訳だ。それからの3人の状況は全く分からないけど……ん?
辺りを見渡すと、ジュース諸々の空は見当たらない。流石に人様の家と言う事もあって、片付けて寝たんだろうと少し安心した……のも束の間。隣に敷かれた布団が、見事に空なのに気が付いた。
居ない? 川の字に敷かれた布団。俺は一番端っこで、左には確か美由が寝る予定だったはず。俺の布団にも居ないし、布団も空。どこに……
そんな疑問を覚えつつ、更に隣の布団へ視線を向ける。するとどうだろう、その膨らみは明らかに大きい。それこそ人1人の膨らみじゃなかった。もしや……そんな思考の中、ゆっくりとその中を覗いてみると、そこにはある意味夢の光景が広がって居た。
なっ、なんだこれ……
「すーすー」
「すやすや」
「むにゃむにゃ」
おいおい。確かにこの布団は烏真さんが寝る予定だった所だけど、両脇で挟むんじゃないよ姉妹で。
気持ち良く眠る女子3人。しかも見事に密着する姿は、一瞬驚きを隠せない。ただ、揃いも揃って整った顔立ちだけあって、なんとも変な気分を覚えるのも事実だった。
しかし、もしかして傍から見たら俺もこんな感じなのか? ……いや、烏真さんを俺に置き換えて想像するのは、気持ち悪いから止めておこう。
けど、なんか微笑ましいというか清々しい光景ではあるな。 ……そうだ。
パシャリ
なんかの為に、写真撮っとこう。後で見せた時の反応も楽しみだしな。
画して、朝からどことなく満足感を覚えた俺。ただ、気持ち良く寝ている3人を起こす気にはなれなかった。だったらどうする? 数秒考えた所で、俺はある事を思い付いた。
とりあえず、一月さんや厳真さん達は起きてるよな? 朝の挨拶と、昨日のお礼しておこう。
こうして、俺は静かに襖を開けると……燦々と太陽が降り注ぐ廊下へと歩みを進める。目の前には、中庭に大きな木々がお出迎え。その光景はやっぱり雄大で荘厳だった。
「台所にいるかな?」
そんな光景を横目に、台所に向かって歩いて行く最中……お風呂場からある人影が廊下に現れた。この光景に相応しい着物とまとめ上げられた黒髪は、俺が差探してた人だと一目で分かる。
「あら。おはよう? 空くん」
「おはようございます! 一月さん」
やっぱ、家に居る時も……毎日着物着てるのかな?
「随分早起きね? その様子じゃ女の子達はまだお眠り中かしら?」
「ははっ。ちょっと早く目が覚めちゃいました」
「あの子達昨日は随分盛り上がってたみたいね? まぁ、せっかくのお泊りに今日もお休みだから寝かせておきましょ?」
「ですね。あの、一月さん。ご飯からお風呂に、気持ちの良い布団まで本当にありがとうございます」
「全然よ? ところで、空くん。起きてもらってあれなんだけど、まだ朝御飯の準備が出来てないのよ」
「あっ、全然です! むしろ俺手伝います」
「いいのいいの。もしよかったら、朝風呂でもどう?」
「えっ? お風呂ですか? でもまだ早朝ですよ? お湯だって……」
「大丈夫大丈夫。昨日掃除はしたし、そもそも父がお風呂好きでね? 朝からお湯張ってるのよ。だから、もう万全な状態」
いやいや、いくらお風呂好きって言っても……しかも張りっぱなしって、昨日も気になってたけど源泉かけ流しとか、温泉地みたいな事じゃないですよね? でも、あの浴室で朝風呂……最高かよっ!
「いっ、いただきます!」
★
「マジでお湯張ってある!」
一月さんのご厚意に甘える様に、俺は朝っぱから御褒美並みのお風呂を堪能することにした。
「にしても、一月さんには本当に感謝しないとな。とりあえず一応履かせていただきました」
それは、お風呂場へ行こうとした時に言われた言葉だった。
『そうそう。昨日の水着、もう乾いてますよ? 籠の中に入れてるから』
『えっ? あっ、ありがとうございます』
『乾かすのはすぐだから、今も一応履いた方が良いんじゃない? いつ彼女達が乱入するか分からなないもの』
『ははっ。そうします』
昨日は乾かすの任せてって言う烏真さんのお言葉に甘えたけど、丁寧に準備までしてくれるとは。ありがたやありがたや。
とりあえずジャワー浴びてっと……
椅子に座り、朝一番のお湯を浴びる。夜とは違った朝日の中に浴びるそれは、また違った気持ち良さを感じる。
「ふぅ」
そんな声が不意に漏れた瞬間だった。
ガラガラ
「よっしゃー」
それは完全に不意打ちと言っても良い。全身が良持ち良さに包まれる中、耳を通った一筋の声。それに反応しない訳がなかった。
えっ?
誰? 背は……高い? スタイルが抜群に良いから男の人じゃない。でも、この声は聞いた事が無いぞ。
髪も短くて……えっえっ?
しかも……当たり前だけど裸じゃないかっ!
入り口で、タオルで隠す事も無く、堂々と仁王立ちする人物。
突如として現れたその人は、美由でも美世ちゃんでも、烏真さんでも一月さんでも無かった。
ちょっ、えっ? いやいやあの……
「って、あれ? 先客かぁ?」
だっ、誰ですかぁぁぁ!!
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