普通の違い




 窓から見える景色が、すっかり暗さを目立たせる頃。


「がっはっは! 皆食べろ食べろ!」

「そうだよ。成長期なんだし、食べた分だけ栄養になるんだから」


 烏真家のリビングで、俺達は晩ご飯をご馳走になっている。


「おっ、やっと飲む気になったか? 空くん!」

「いやっ、未成年ですので」


 この豪快な人は、烏真さんのお爺さんの烏真厳真げんまさん。烏山村の村長さんで、烏真家における大長老的な人らしい。その見た目は結構怖い感じなんだけど、話して見ると面白い人だ。しかもかなりの酒豪な気がする。日本酒のペース早過ぎじゃないですかね? それに流石にお酒はダメでしょう。


「流石に高校生にお酒はダメですよ? せめて卒業してからじゃないと」


 そんな厳真さんの隣で、同じく日本酒を呷る優しそうな男性。この人は烏真さんのお父さんで、烏真一都いちとさん。お婿さんらしいけど、厳真さんとの仲はすこぶる良いらしい。しかも、なんとあの鳳瞭学園で教頭先生をしている先生だ。通りで知性を感じる訳だよ。でも、卒業してから良いってのはちょっと違いますよね!?


「そうかぁ? 俺らの時代は年相応な時から飲んでたもんだけどなぁ」

「いやぁ、良い時代ですね。私もその時代にここに居たかったですよ~」


 ……はは。烏真さんの話だと、こんな感じで毎晩晩酌してるらしいな。

 一月さんの手作り料理を囲みながら、色々話を聞いたけど……どうやら今現在、この家には4人で住んでいるみたいだ。親戚やら兄弟も、別な所に住んでいたり、留学や出張なんかに行ってるそうで……なんとも寂しいと厳真さんが愚痴っていた。


 まぁ、流石にこの家に4人は広すぎるよな。


「がっはっは。そうだろそうだろ?」

「羨ましい限りですよお義父さん!」


 ははっ、完全に出来上がってるな。しかも女性陣は……


「このおはぎ美味しいっ! 一華ちゃん!」

「これ一月さんの手作りなの? すごっ!」

「私も大好きなんです。作り方勉強中で……」


 スイーツ談義が始まってるぅ。いや、一月さんの美味しい手料理結構食べた後に、良くデザート行けるな? 甘いものは別腹ってか?


 なんて、お腹をさすりながらあっけにとられて居た時だった。


「ふふっ。お口に合ったかしら?」


 一月さんが、俺の前にそっとお茶を出してくれた。


「いやぁ最高です。お腹いっぱいですよ」

「嬉しいわ」


 いや、美耶さんも料理は上手いけど……一月さんの和食フルコースもヤバいぞ? どっかの懐石料理かと思ったくらいだ。


「女の子達は甘いものに夢中ね」

「おはぎ、めちゃくちゃ美味しいらしいですね? 俺も後でいただいても良いですか?」


「もちろん。じゃあ……空くんは先にお風呂どう?」

「えっ? 良いんですか?」


「もちろん! じゃあ、ちょっと待ってね? 今案内するから」

「はっ、はい! よろしくお願いします」




 ★




 立ち上がる湯気の量が半端ない。

 鼻を抜ける木の匂いが、まるで森林の中に居るような錯覚を覚えさせる。


 そんな贅沢な状況の中、俺は優雅にお風呂を満喫している。


 ……やっぱお風呂場デカ過ぎだろ? 

 立派な木で出来た浴槽は、10人は楽に入れるであろう広さ。何度も言うけど、ここは烏真さんの家で一般家庭のお風呂場だ。しかしながら、この大きさは予想外。


 いや……実際家に入ってからもその大きさにビビったけど、お風呂までヤバいとはな。ここに来てから晩ご飯食べるまで色々あったし……やっぱ烏真家ってヤバいんじゃないか?


 ふとそんな事を考えながら、ここへ来てから今までの状況を思い出す。


 まずは、気軽に忍者村に行ける事だ。

 お茶をご馳走になったあと、皆で寝る場所まで案内され、荷物なんかを置いたんだけど……その部屋ってのがめちゃくちゃ広い。俺達3人じゃ余りに余る大きさで、聞けば親戚が集まった時の宴会場らしい。


 家にそんな部屋がある時点でおかしいだろうよ。

 そして、その後の烏真さんの言葉。


『じゃあ、お昼ご飯も兼ねて忍者村に行きましょうか』


 まぁ折角隣にあるんだし、有名どころで遊ぶのには賛成だったよ? けど、烏真さんの後について行った先は……さっきの裏道。村へと続く道だった。しかもそのまま、何の迷いも無く裏口開けてさ? 従業員らしき人に挨拶して、普通に忍者村に入って行ったんだぞ?


 流石に俺達も焦ったさ? お金は!? 大丈夫なの!? とかさ。

 けど、


『あぁ! 全然大丈夫ですよ? 村の人はタダなんです』


 あのお清楚笑顔で真っすぐ言われたら、3人とも何も言えなくなっちゃったよ。

 いやその……目一杯乗り物乗ったし、アトラクションも体験したし、ご飯だってめちゃくちゃ食べたけどさ? そりゃめちゃくちゃ楽しかったよっ!


「……けど、やっぱ烏真さんはなんか違うよ。あの雰囲気に裏付けされた背景が何となく分かる。烏山村村長の家って事が、どれだけのステータスかは分からないけど……少なくとも村民だからテーマパーク無料なんてあり得ない。それも俺達もなんてやっぱりあり得ない。まさか、烏山村の長=忍者村の経営者じゃないだろうな? ははっ、さすがにそれは……」

「おにいちゃ~ん!」


 それは突然の出来事だった。気持ち良く湯船に浸かっていた、俺の耳に入り込む声とドアの音。

 思わず変な声が零れてしまう。


「はっ!?」


 そして反射的に、その声の方へ視線を向けると……そこにはあり得ない姿の3人が立っていた。


 えっ? あれ? 見間違いか? 湯気による幻覚か? 見覚えのある3人が……しかもバスタオル1枚で、浴室の入口に立ってるんだけど……


「抜け駆けとはズルいよ? 空」

「そんなお兄ちゃんには罰ゲームだ! ねっ? 一華ちゃん?」

「うっ、うぅ……恥ずかしいです……」


 あれ? ちゃんと声もするぞ? あれ……まさか本物?


 ……っ!!! 人様のお風呂場だぞ! しかも、赤の他人の烏真さんまで巻き込んで……


 何してるんだよ! あんた達っ!!

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