普通の違い
窓から見える景色が、すっかり暗さを目立たせる頃。
「がっはっは! 皆食べろ食べろ!」
「そうだよ。成長期なんだし、食べた分だけ栄養になるんだから」
烏真家のリビングで、俺達は晩ご飯をご馳走になっている。
「おっ、やっと飲む気になったか? 空くん!」
「いやっ、未成年ですので」
この豪快な人は、烏真さんのお爺さんの烏真
「流石に高校生にお酒はダメですよ? せめて卒業してからじゃないと」
そんな厳真さんの隣で、同じく日本酒を呷る優しそうな男性。この人は烏真さんのお父さんで、烏真
「そうかぁ? 俺らの時代は年相応な時から飲んでたもんだけどなぁ」
「いやぁ、良い時代ですね。私もその時代にここに居たかったですよ~」
……はは。烏真さんの話だと、こんな感じで毎晩晩酌してるらしいな。
一月さんの手作り料理を囲みながら、色々話を聞いたけど……どうやら今現在、この家には4人で住んでいるみたいだ。親戚やら兄弟も、別な所に住んでいたり、留学や出張なんかに行ってるそうで……なんとも寂しいと厳真さんが愚痴っていた。
まぁ、流石にこの家に4人は広すぎるよな。
「がっはっは。そうだろそうだろ?」
「羨ましい限りですよお義父さん!」
ははっ、完全に出来上がってるな。しかも女性陣は……
「このおはぎ美味しいっ! 一華ちゃん!」
「これ一月さんの手作りなの? すごっ!」
「私も大好きなんです。作り方勉強中で……」
スイーツ談義が始まってるぅ。いや、一月さんの美味しい手料理結構食べた後に、良くデザート行けるな? 甘いものは別腹ってか?
なんて、お腹をさすりながらあっけにとられて居た時だった。
「ふふっ。お口に合ったかしら?」
一月さんが、俺の前にそっとお茶を出してくれた。
「いやぁ最高です。お腹いっぱいですよ」
「嬉しいわ」
いや、美耶さんも料理は上手いけど……一月さんの和食フルコースもヤバいぞ? どっかの懐石料理かと思ったくらいだ。
「女の子達は甘いものに夢中ね」
「おはぎ、めちゃくちゃ美味しいらしいですね? 俺も後でいただいても良いですか?」
「もちろん。じゃあ……空くんは先にお風呂どう?」
「えっ? 良いんですか?」
「もちろん! じゃあ、ちょっと待ってね? 今案内するから」
「はっ、はい! よろしくお願いします」
★
立ち上がる湯気の量が半端ない。
鼻を抜ける木の匂いが、まるで森林の中に居るような錯覚を覚えさせる。
そんな贅沢な状況の中、俺は優雅にお風呂を満喫している。
……やっぱお風呂場デカ過ぎだろ?
立派な木で出来た浴槽は、10人は楽に入れるであろう広さ。何度も言うけど、ここは烏真さんの家で一般家庭のお風呂場だ。しかしながら、この大きさは予想外。
いや……実際家に入ってからもその大きさにビビったけど、お風呂までヤバいとはな。ここに来てから晩ご飯食べるまで色々あったし……やっぱ烏真家ってヤバいんじゃないか?
ふとそんな事を考えながら、ここへ来てから今までの状況を思い出す。
まずは、気軽に忍者村に行ける事だ。
お茶をご馳走になったあと、皆で寝る場所まで案内され、荷物なんかを置いたんだけど……その部屋ってのがめちゃくちゃ広い。俺達3人じゃ余りに余る大きさで、聞けば親戚が集まった時の宴会場らしい。
家にそんな部屋がある時点でおかしいだろうよ。
そして、その後の烏真さんの言葉。
『じゃあ、お昼ご飯も兼ねて忍者村に行きましょうか』
まぁ折角隣にあるんだし、有名どころで遊ぶのには賛成だったよ? けど、烏真さんの後について行った先は……さっきの裏道。村へと続く道だった。しかもそのまま、何の迷いも無く裏口開けてさ? 従業員らしき人に挨拶して、普通に忍者村に入って行ったんだぞ?
流石に俺達も焦ったさ? お金は!? 大丈夫なの!? とかさ。
けど、
『あぁ! 全然大丈夫ですよ? 村の人はタダなんです』
あのお清楚笑顔で真っすぐ言われたら、3人とも何も言えなくなっちゃったよ。
いやその……目一杯乗り物乗ったし、アトラクションも体験したし、ご飯だってめちゃくちゃ食べたけどさ? そりゃめちゃくちゃ楽しかったよっ!
「……けど、やっぱ烏真さんはなんか違うよ。あの雰囲気に裏付けされた背景が何となく分かる。烏山村村長の家って事が、どれだけのステータスかは分からないけど……少なくとも村民だからテーマパーク無料なんてあり得ない。それも俺達もなんてやっぱりあり得ない。まさか、烏山村の長=忍者村の経営者じゃないだろうな? ははっ、さすがにそれは……」
「おにいちゃ~ん!」
それは突然の出来事だった。気持ち良く湯船に浸かっていた、俺の耳に入り込む声とドアの音。
思わず変な声が零れてしまう。
「はっ!?」
そして反射的に、その声の方へ視線を向けると……そこにはあり得ない姿の3人が立っていた。
えっ? あれ? 見間違いか? 湯気による幻覚か? 見覚えのある3人が……しかもバスタオル1枚で、浴室の入口に立ってるんだけど……
「抜け駆けとはズルいよ? 空」
「そんなお兄ちゃんには罰ゲームだ! ねっ? 一華ちゃん?」
「うっ、うぅ……恥ずかしいです……」
あれ? ちゃんと声もするぞ? あれ……まさか本物?
……っ!!! 人様のお風呂場だぞ! しかも、赤の他人の烏真さんまで巻き込んで……
何してるんだよ! あんた達っ!!
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