ブッ飛んでる烏真家の教え
「ちょっ!!!」
「初めてなので、不慣れな点があるかと思いますが……頑張ります」
ガチャ
その想定外の出来事に、まともな言葉が出なかった俺。その隙に、なんと最後の希望である扉が閉められた。
待て待て、何で烏真さんが? しかもバスタオル1枚? 意味が分からない。
そんな疑問が渦巻く間に、
「えっと、ボディーソープは……これですね?」
当の烏真さんは、横にある棚からボディーソープを手に取る。鏡でその姿が見えてる以上、いくらバスタオルを巻いているとはいえ、直で見る訳にもいかない。
あぁ……どうするどうする? とっ、とりあえず話を聞こう。そうだ、烏真さんも何処か混乱してるっぽいし。とりあえず冷静になってもらおう。
「烏真さん! なっ、なんでお風呂場に?」
「さっ、先程のお礼に来ました」
「おっ、お礼?」
「はい。先程、私を水溜りから救ってくれたじゃないですか。そのお礼です」
えっ? いやいや、あれはたまたまじゃないか? しかもお礼をされる程の事でもない。大体、お礼にしたって、この行動は想像の斜め上過ぎるだろっ!
「そんなのたまたまだって。しかも、お礼にしては色々と……」
「母から聞いていたんです。誠心誠意のお礼をしたい時は、背中を流して差し上げなさいと。烏真家ではそう言い伝えられているそうです」
なっ、なに? なんだよそのとんでも言い伝え! 18禁ゲームの設定か? 現世でそんな言い伝え初めて聞いたぞ? いや、聞けば聞くほど男冥利に尽きる話だけど……今は色々とヤバいでしょ!
「えっ? 言い伝え?」
「はい。それを美世さんのお母様……あっ、美耶さんにお話したら、笑顔でバスタオルを貸していただきまして……」
なっ! 美耶さん~! 自分と被って見えたのか? それとも面白半分か? ……なんだろう、なんかめちゃくちゃ笑顔な美耶さんの姿が容易に想像できる。
「とっ、とりあえず……失礼しますっ!」
って! うおっ!
その瞬間、背中に感じる手のひらの感覚。今までこういった状況になったのは2回。とはいえ、人様に背中を洗われる事に慣れる訳がない。
しかも今回は、言わば他人。美世ちゃんの友達であり後輩。それこそ見知った仲の美世ちゃんや美耶さんとはまた一味違う。
ただ……
「どうですか? 天女目さん」
一生懸命な烏真さんを無下にするのも気が引ける。
とりあえず、ある程度洗ってもらおう。うん、そうすれば烏真さんも満足してくれるはず。
「うん。体の隅々まで綺麗になってる感じがする」
それから暫く、俺は烏真さんの成すがままに……体を洗ってもらった。
……なんだろう。そりゃ普段ここまで丁寧には出来ないけど……人にされると、やっぱり変な感じだ。でも、かなり綺麗になってるって自覚が持てる。
あと……
「んっと……」
想像の倍以上、烏真さんが丁寧過ぎる。同じ場所何往復洗ってくれるんだ? 疲れないのかな。
しかも、
「じゃあ次腕ですね?」
「腕!?」
「はい! 洗えるところは可能な限り洗わせて下さい!」
「いや、流石に……」
「だめ……ですか?」
その献身的な動きに、その断ろうとすると見せる悲しげな声は、やっぱり反則だって!
「じゃっ、じゃあお願いしようかな?」
「はいっ!」
しかも、腕も丁寧なのは嬉しいけど……隙から隅まで洗ってくれるから、自然と体が密着して……うおっ! 柔らかい感触がっ!
いっ、いかんいかん! 後輩だぞ? 美世ちゃんの友達だぞ? 変なこと考えるな!
「はぁ……はぁ……」
「んっ……と……」
「んんっ……」
……無理だろっ!
なんなの烏真さん。頑張ってるのは分かるけど、無意識に漏れてる声が妙にえっちぃんだよ!
あぁ……くそ……これまでの我慢が、こんな所で仇となるとは……
烏真さんの手の温もりを感じながら、耳にはどこか色っぽい声。さらには今に至るまでの自分の状況が相まって……どう頑張っても、俺のテントは最高潮に張りっぱなしだった。
うっ、うまくタオルで隠れてるから大丈夫だけど、そろそろ……
「はぁ……じゃ、じゃあ次は前を……」
ってダメだって! これじゃ美耶さんの時と同じだ!
「まっ、前は大丈夫……」
「えっ……」
その瞬間だった。流石に止めようと、俺は後ろを振り向いた。するとどうだろう……目の前には烏真さんの顔。その距離は本当に目と鼻の先の距離だった。
そのあまりの近さに、一瞬言葉を失ってしまう。
なっ! 近っ!
間近で見る烏真さんの唇は、妙に色っぽく。その息遣いを直に感じてしまう。
それは、烏真さんも一緒なんだろう。目を見開いたまま動かない。
とっ、とりあえず……前だけはダメだ。やんわりと……
「ごっ、ごめん烏真さん。でも、流石に前は……」
「あっ……あ……」
ん?
「烏真さん?」
「顔が……天女目さんの顔がこんなに近くに……」
なんか様子が……
「顔……近い……息遣いが……」
「おーい?」
あれ? なんか、目の焦点が合って無いような……
「あわ……あわわわ……」
「えっ? 烏真さん?」
「はぁ~」
「ちょっ!」
それは一瞬の出来事だった。驚いた表情で、何かを呟いていた烏真さん。俺の声も届いていない様で、不思議に思った時……その整った鼻から零れたのは赤いものだった。
俺がそれに気が付くと同時に、フラフラと体勢を崩す烏真さん。こうなると、もうテントの話なんてどうでもいい。
俺は、素早く振り向くと……間一髪で烏真さんの体を支える。
やばっ! これもしかしてのぼせたのか? くっそ、俺のせいだ。とりあえずこのままじゃ身動きが取れない。そうだ!
「美耶さ~ん!!!!」
風呂場に響く俺の声。そんな思いが届いたのか、美耶さんの掛け付ける足音が聞こえて来た。
「どうしたの~? せっかくのお楽しみ……」
「烏真さんが! とりあえずドア開けて下さい!」
「えっ? ちょっと待って? ……一華ちゃん!」
「俺だけじゃ難しいんで、手伝ってもらえますか?」
「任せて!? って、あらやだ……やっぱり大きいわね」
なっ! この期に及んであなたと言う人は……
「どっ、どこ見てんですか!」
「一華ちゃんも、空くんの立派なの目の前にして興奮しちゃったのかな?」
「なっ! 美耶さーん?」
「てへっ、ごめんなさい? 救助が先よね?」
この場面で、どこ見てんですか! しかも何言ってんですかー!!
「お願いしますよ?」
「はーい」
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