姉の本音
俺は今、あり得ないほどの衝撃を受けている。
そしてそれと同時に、
「うわぁぁぁん」
とんでもなく動揺している。
いや、誰がこんな事を予想できただろうか。
目の前の美由が泣いている。しかも大きな声を上げながら。
それこそ、最初に出会ってから数年は経っているけど……美由の泣き顔なんて見た事が無かった。ましてや、こんなに声を上げる姿さえ。
「ちょっ、美由……?」
「空のバカ!」
うおっ、めちゃ目が赤い! しかも、
「バカバカバカバカ!」
ポカポカ叩かないでくれぇ! まるで子供が駄々こねてるみたいじゃんか! とりあえず、落ち着かせないと!
「なっ、ちょっと落ち着けって美由!」
「うるさいうるさい! 何で私の胸は触ってくれないの! なんで襲ってくれないの! そんなに私魅力ない? 美世より魅力ない? 色気ない!?」
なっ……
「裸になっても触られやしない。キスの1つだって空からはしてくれない。アピールしても全然無駄じゃん!」
「いやっ。だから……」
「男だったら普通襲うでしょ!? 色々いじくるでしょ? それをしないって事は、そういう事なんでしょ~!?
うっ……美由の奴、やっぱり最近の行動はこういう意図があったのか。けど、美由や美世ちゃんには……まだ家族としての気持ちが強い。
面と向かって行った事無かったか。ただ、美由の思いは想像以上なのかもしれない。だったら言うべきか。
「あのさ美由。そりゃ美由は可愛いし、明るい。胸も大きいしスレンダー。めちゃくちゃ魅力的だよ」
「だったら……」
「けどさ、俺にとっては家族なんだよ。今まで2人きりだった家族が3人増えて……何処かで憧れてた家族像そのものが、俺の目の前に出来た。それだけでも嬉しいんだ。2人の気持ちだって嬉しいんだよ? けど、どこかまだ家族としての気持ちが大きいんだ。そんな半端な気持ちで、2人に手を出すのが嫌なんだよ」
「でも……美世のおっぱいは触ったじゃない! 私、見てたもん」
まっ、マジか? あの場面を? となると美世ちゃんが嘘言ってるなんて誤魔化しも出来ないよなぁ……このヒートアップした美由をどうするべきか。
「あっ、あれは……」
「触ってたじゃん! 美世は女として見てるって事じゃん!」
「それは違うって!」
「違うくない!」
なんだ? マジでここまで乱れてる美由初めてだ。
「嫌だ嫌だ嫌だ。私だって、甘えたいのに! けど美世が居るから、キャラ被らない様にお姉さんキャラで行くしかなかったのに!」
……ん?
「なのに、なんで空は先輩にも好かれてんのさ! 九条先輩やら桐生院先輩とか! リアル先輩キャラが居たら、偽物が勝てる訳ないじゃん! しかもいつの間にか後輩の烏真ちゃんとも仲良くなってて……存在感がドンドン薄くなってさ……挙句の果てに、色気使っても何もされないなんて、自信無くすじゃん!」
「美由……」
「挙句の果てに、更に年上のお姉さんキャラまで登場してさ? しかも全員可愛いか綺麗かの二択でさ? 焦るじゃん? だから今まで以上に攻めないといけないじゃん? なのに……なのに……」
……そういう事か。
美由は美世ちゃんが年下=妹キャラだし、被らない様にお姉さんキャラを演じていたのか。でも、九条先輩や桐生院先輩と知り合って、本当のお姉さんが出て来た事に焦った。そこにライバルとして後輩の烏真さん。あと、詩乃先生や希乃先生の登場で、その焦りが限界に達した。
だから何とかしようとして……裸になったりしたのか。それでも俺は手を出さなくて……
「なぁ美由?」
「なにさ」
「なんか色々ごめん。美由が抱えていた事、知らなくてごめん」
「別に……空のせいじゃない」
「素直に嬉しい。そこまで俺のこと考えてくれて」
「お世辞はいらない」
「お世辞なんかじゃないさ。でもさ? まず言わせてくれ……別にお姉さんキャラにこだわらなくても良いんじゃないか?
「だっ、だってそうじゃないと私の存在感が……」
「分かって無いな。世の中には同学年……近い所だと幼馴染ポジションってのがあってさ? 同じ目線で話して、笑って……俺と同じ雰囲気で居られるキャラも居るんだぞ?」
「えっ……」
「昔から、美由は俺と美世ちゃんをまとめる立場だった。そういう性格だと思ってた。けど違うんだろ? 本当は一緒にバカしたり、はっちゃけたかったんだろ? だったら、自分を偽るのはもう止めろよ」
「そっ、空……」
「俺は本当の美由と居たい。本当の美由ってどういう人なんだ?」
「私は……私は……」
……別に焦る必要はない。ちゃんと俺は美由を見ているんだ。けど、それを美由自身が感じなければ意味がない。変にキャラを作る必要はない。その願いが……届くだろうか。
「私は……普通に話したい。一度作ったキャラを崩すのが怖くて、特に学校ではそういう気持ちが強かった。でも、普通に接したい。教室に行って話したい。学校だろうと、隣で話したいし密着したい。手だって繋ぎたい。冗談言って、空を笑わせたい。普通の同級生みたいにっ!」
……届いた。
「じゃあそうしなよ。誰も変に思わない。俺だって、本当の美由で居て欲しいんだ」
「ほっ、本当? 存在感薄くならない?」
「全然だよ」
「……信じてみる」
えっと、とりあえず一件落着かな? でも、美由がこうなったのは俺の責任でもあるよな? だったら、その点については……
「なぁ美由?」
お詫びしないといけないよな。
「何? そ……んっ!!!」
俺は美由の名前を呼ぶと、すかさずその唇を奪い取った。そして徐に舌を入れ、これでもかと美由の口の中を侵食する。
「んっ……んん」
美由の息遣いが、徐々に激しくなる。けど、それだけではまだ足りない。
俺は、右手で美由の腰に手を当てると、左手で……
「ん……はぅっ!」
優しく、美由の左胸に手を触れた。
制服の上からでも、やっぱり柔らかい。それに手のひらから零れるほどの大きさ。
そりゃこんな至宝を自分の物に出来るのは嬉しい限りだ。けど、美由……もうちょっとだけ待ってくれないか?
「はぁ……はぁ……」
そんな状況を数秒続け、俺はゆっくりと体を離す。
心臓がドキドキしている。けど、それは美由も同じ様で……その表情は蕩ける様なものだった。
「美由に変な気遣いさせたお詫び。それに、俺は誰とでもキスなんてする訳じゃない。その意味分かるよな?」
「うっ……うん」
「でもさ、やっぱりまだ2人は家族で……その先に進む勇気がないんだ。でもさ? 2人は俺にとって特別なんだ。だから、もう少し待ってくれないか?」
「うっ、うん」
こうして、人知れず美由が感じていた気持ちを理解した俺。安心したと同時に、何となく感じていた、美由の全てを知っていたという自信が、過信だった事に驚いた。
……まだまだ、俺の知らない部分があるのかもしれないな。家族としても、まだまだこれからなのかもしれない。
「ねっ、ねぇ空?」
「うん?」
「こうして触ってくれたって事はさ? これからも触ってくれるよね?」
「えっ? あっ……いや……」
あれ? なんか想像してた方向性と……
「凄く感じちゃった。だから、これからもね? 好きにして良いから」
違うんですけど!?
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