義妹×先輩

 



 樫乃茜との思わぬ再会。一時はどうなる事かと思ったけど、


「次はゲームセンターね?」

「行こう行こう!」


 義姉妹のおかげで、その危機を乗り切る事が出来た。

 しかも樫乃が見せた驚いた顔。それを目にした時、少し心が晴れたよ。


 時々突拍子もない行動をするけど……


「ほら? 空くんも」

「お兄ちゃん早く―」


 やっぱり、2人には感謝しか浮かばないなぁ。


「はいはーい。今行くよー」




 ★




 ……前言撤回してもいいかな?


「ちょっとトイレ行って来るね―」

「はぁい。じゃあ美世、プリントシール出来上がるの待ってるね?」

「美世ちゃん、俺そこのベンチ座ってるよ」


 ふぅ。

 特に何もしていないのに、体に広がる疲労感。その理由はずばり、2人の行動に他ならない。さっきまで感じていた感謝が一気に吹っ飛ぶ程の。


 いやいや……


 あれから俺達はこのゲームセンターに来た訳だけど、開口一番、


『ねぇねぇプリシル撮ろうっ』

『良いね』


 そんな言葉から、プリシルコーナーへと向かった訳だ。プリシルとはプリントシールの略で、様はシールタイプの写真が色々な背景・効果を使って撮れる機械だ。

 もちろん、学生に人気で何種類もの機械が立ち並ぶ。


 当然、2人もハマっているらしく、そそくさと向かった訳だが……


『えっ? 空くんもだよ?』

『当たり前でしょー』


 どうやら俺も、プリシルの撮影に含まれているらしかった。いつもだったらやんわり断って居たんだろうけど……さっきの件もあって、流石に断れなかった俺は、2人と一緒に機械へと入って行った訳だ。


 しかしながら、そんな俺の心情を知ってか知らずか……撮影中はとんでもなかった。


『もっとくっついてよ』


 いつもの様に両端から挟まれ、腕を胸に挟まれる光景。


『チュー』

『あっ、美世!?』


 美世ちゃんの不意打ち。頬にキスという光景。


『ずるい。次は私』


 続け様に美由が頬にキス。


『美世、アップはー?』

『賛成~!』

『ちょっ、顔が……』


 3人の顔がドアップで写されるという光景。


 正直、その後の事は記憶にない。

 恐らく5回ほど撮影をした気はするけど……その途中からは、もうどうにでもして下さい状態だ。


 そしてやっと今、解放されたという訳だ。


「出来た出来た―!」


 ははっ、めちゃくちゃ嬉しそうですねぇ。美世ちゃん。


 元気ハツラツな中学生。

 一気に老けた高校生。

 その並びはなんとアンバランスだろうか。それにしても元気だよなぁ。なんて考えながら、美世ちゃんの様子を見ていた時だった。


「あれ? 空?」


 耳に入る声。

 そして隣のプリシルの機械から覗かせる姿。


 そのどちらも、俺にとっては覚えのあるものだった。そして悪いとは思いつつも、こう感じてしまう。


 どうして今日と言う日は……色んな人と会うのだろうか。


「やっぱり空じゃん」

「くっ、九条先輩?」


 隣の機械から現れたのは、まさかの九条先輩だった。休日ともあって、制服とは違い私服姿はいつもとは違った雰囲気を醸し出す。

 今まで目にした制服以外の服装と言えば、半そで短パンの運動スタイル。純粋な私服姿は初めて見る気がした。


 私服だと雰囲気変わるなぁ。 ……っ! ってかヤバくね? ここに美由が来たら……


 その違いに感心しながらも、頭の中は妙に冴え渡っていた。

 美由と九条先輩。先輩は大丈夫だけど、問題は美由。ここで引き合わせてはマズイと、危機感に襲われる。

 ただ……


「こんなところで会うとはねぇ」

「ん? どしたの菜月? 知り合い?」


 その危機感に襲われるどころか、一気に溢れ出すのは……時間の問題だった。

 そう、九条先輩の背後から聞こえた声。そして現れた金髪。

 本来であれば、嬉しいと思う場面だけど……今日に至っては結構な修羅場の始まりな気がした。


「きっ、桐生院先輩!?」

「あっ、空っちじゃん!」


 まさか桐生院先輩まで一緒だとは。


「えっ? なに? 2人共知り合い?」

「結構最近、お知り合いになった仲よねぇ。それはそうと、菜月も天女目君と知り合いなの?」


「私はテニスの関係で結構前からの知り合いよ?」

「なるほど……って空っちテニスやってたんだぁ」


 ……非常にまずい。そもそも、この2人の先輩方が知り合い……もとい、この状況から見てかなりの仲の良さだとは思いもしなかった。


 更に美由と九条先輩はもちろん、横にいる美世ちゃんだって、先輩達を目の前にしたらどうなるか分かったもんじゃない。

 2人共間違いなく美女カテゴリーに入っている。しかも高校の先輩となると、警戒心が……


「あっ、あの~もしかして京南高校の方ですか?」


 って、意外と物腰が柔らかいだと?


「そうだけど……」

「もしかして、この可愛らしい子はぁ……」

「はっ、初めまして! お兄ちゃんの妹の天女目美世と言います!」


 しかも! 自ら妹宣言!?

 ハッキリ言って、この展開は予想外だった。なぜなら美由・美世の2人は女性に対する警戒心が結構高い。それも俺が興味を持つ人に対してはそれが顕著だ。

 テレビに映る女優さんなんかを見ていても、興味があるのかタイプなのか。質問攻めに合う事もある。

 だからてっきり、彼女です~! とかそういう事を言い出すのかと思ったのだけど……これはマジで想定外。


「妹っ? 空って妹居たっけ!?」

「そうなのぉ~? めちゃくちゃ可愛い。桐生院家に来ない?」

「ふふっ。可愛いなんてありがとうございます。けど、正真正銘の妹なんですよ? ねっ、お兄ちゃん?」

「あっ、あぁ。妹なんですよ」


 ……って、笑顔で俺に返事促しながら、ガッツリ腕掴まないでくれます? しかもいつも以上に胸に押し付けてないか?


 これって、見た目は妹ですアピールだけど、内心見せつけてんのか? ……意外とやるな美世ちゃん。


「そうなんだ。初めまして、私は空の1つ上の九条菜月って言います。お兄さんとはテニスと通して知り合いです」

「じゃあ私も。京南高校2年の桐生院三葉です。お兄さんとは屋上で逢引する仲……」

「あっ、逢引っ!?」

「ちょっ、先輩! それは語弊がありますって」


「ちょっと三葉? 毎度の事ながらドラマの見過ぎだって」

「ははっ。ごめんごめん。屋上でバッタリ会った仲だよぉ」

「びっくりしました。それにしても2人方とも綺麗で美人さんですね。お兄ちゃんやるじゃん」

「ははっ……」


 気のせいかな美世ちゃん? なんか目が笑ってない気がするんですけど? 気のせいですよね?


「あっ、じゃあここで会ったのも何かの縁ですし、皆でプリシル撮りませんか?」

「おっ、いいね」

「賛成、賛成ぃ~」


 はっはい? マジで美世ちゃん、何を言ってるんだ? 


「良いよね? お兄ちゃん?」


 何を考えてるんだ? 君は一体何を考えてるんだ。しかも先輩2人を目の前に、断れないって分かってるよね? むしろそれ込みで提案したよね?


 美世ちゃん。君は一体……何を企んでいるんだ!?


「そっ、そうだね……先輩達が良いって……」

「決まり! 機種選んでも良い?」

「レッツゴー! 仕方ないから、菜月に選らばせてあげるかぁ。良いかな? 美世ちゃん」

「もちろんですっ! じゃあお兄ちゃんも行こうか?」


 マジで怖いんですけどっ!


「はっ、ははは……」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る