デルニエの箱庭

安崎依代@1/31『絶華』発売決定!

Ⅰ.

 気付いたら私は、温かなベッドの中にいた。


 ──ここは、どこなのだろう。


 その問いに答える言葉を、私は持っていなかった。頭の中は霧を詰め込まれたかのように真っ白で、重くて、問いはその霧の中に吸い込まれるようにして消えていく。


 ──私は、誰なのだろう。


 続く問いかけにも、私は答えることができなかった。霧に向けた言葉は端からゆっくりと吸い込まれて、そのまま返ってくることはない。


 自分の頭の中の霧に、私は小さく息を吐いた。


「あれ? 目、覚めた?」


 不意に、誰かの声が聞こえた。カツコツという少し高いヒールの音。その音が私の頭の中の霧を少しだけ遠い場所に押し流してくれる。


「おはよう、気分はどうかな?」


 音の方にわずかに首を傾けると、私の視界にピョコッと人の顔が現れた。


 少女、だった。赤みを帯びた茶色の髪は短く、傾げられた首の動きに合わせて揺れている。大きな丸い瞳と弾けるような笑み。白い霧を詰め込まれた私の頭でも分かるくらい元気いっぱいの少女が、寝台に埋もれる私のことを覗き込んでいる。


「霧の中に倒れていたあなたを見つけたから拾ってきたんだけど、迷惑だった?」


 少女の言葉を肯定する材料も否定する材料も持っていない私は、ただ静かに瞬くと無言で少女を見つめ返した。そんな私をどう捉えたのか、少女は私から言葉が返らないのにニコリと笑みを深くする。


「とりあえずさ、お腹すかない? ご飯にしようよ」

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