湖畔の寂しげな洋館で!

岡泳介

第1話 洋館へ行く!

アメリカ西部·シアトル市から東へ30キロほどの位置にあるクラウス市は、東にロッキー山脈が迫る山間部にあって、人口は10万人ほど。西部開拓時代に林業と鉱業で街を起こし、その後で、日系人が移住して街の発展に貢献した歴史がある街だ。

ケビン·マツバラは、クラウス市の中心街から少し東にある住宅街の小さな家に両親と3人で住む、15歳の日系アメリカ人2世。ケビンの両親は、日本からの移民を禁止する排日移民法はいにちいみんほうが制定される1年前、1923年に日本から船でやってきた。

ケビンはスポーツ刈りの髪型でやや童顔な少年。近所に住む、ハンス·ロザイスとゆう、同い歳の少年と仲が良い。

ハンスはケビンよりは髪がやや長く、ボーイッシな少女っぽい顔つきをしている。

ハンスのパパは、クラウス市の郊外にある製材所の所長で63歳。ボストン出身。ニューヨーク、シカゴで暮らした後、終戦直後にクラウス市へ移住してきた。

今は息子であるハンスと2人暮らし。

そんなケビンとハンスは、この夏、クラウス市郊外、少し細長いハートの形をしたハティヨ湖の湖畔にある、やや小さな洋館で1泊する。

ハティヨ湖畔は昼間は絶景ぜっけいが見える憩いの場所だが、夜は形相が一転し、暗くて不気味な場所。


いよいよ当日、ハンスのパパの車に乗ってケビン達は湖畔の洋館へ向かう。

ケビン達が住む住宅街のすぐ東は針葉樹林の森。その森の中の道を東へ15分ほどドライブすると、少し開けて平原になり、ハティヨ湖が見える。ハンスのパパが所長をしている製材所を横に見て、針葉樹林が並んでいる湖岸沿いの道を進むと、ビクトリア調の小さな洋館が建っていた。ケビン達が1泊2日で過ごす洋館だ。

ちょうどハートの谷間に位置し、3方向を湖に面した場所だが、森の木にさえぎられて湖は見えづらい。ライトグレーに身を包んだその洋館の前で車が止まる。

庭は狭く、草木がやや茂っていて、しばらく人は訪れていないフンイキだが、昼間の陽光のおかげで明るいムードだ。

ケビン達は洋館をまじまじと見た後、ハンスのパパについて洋館内へ。

玄関から右へ行けば談話室と寝室。左には2階へ通じる階段。その向こうに浴室とトイレがあって、つきあたりとなる。

談話室で、ケビンのパパは、冷たいレモンティーを作った。のどがかわいていたケビン達は、レモンティーを飲んで心をいやす。

「ちょっと庭の手入れをしよう!」

ハンスのパパは、草ぼうぼうの庭を見て顔をしかめながら言った。

ケビンとハンスも手伝うはめになった。

「うわぁ~大変だな!」

庭を見るなり、ため息をついたケビン達だが、少しずつ体を動かしていくうちにキレイになっていくのは、楽しくなってくる。

「今日はこのくらいでいいよ。明日はパパ来れないからハンス、残った草の片づけを頼むよ!」

ハンスに頼むパパ。ケビンには頼んでないものの、必然的に手伝う事になるのはケビンも悟る。

汗をかいているケビン達は小さな洋館をバックに記念撮影やら、小道を散歩しながら、ロッキー山脈がそびえる雄大な風景を夕暮れまで満喫。

夕闇が迫ると、少し雲が多くなり、徐々に暗くなってきたので、小道を引き返して洋館ヘ戻る。洋館のガレージにはもう動きそうにない、びついたピンクの車がケビンの視界に入った。前の住人の所有物っぽい。

「それじゃ、明日の夕方、迎えに来るから!」

ハンスのパパは車を動かして町ヘ帰っていく。車のテールライトが遠ざかると、外は真っ暗だ。


シャンデリアが煌々こうこうと照らす玄関は明るいが、廊下へ行くと心なしか薄暗い。

ケビンとハンスは、談話室へ入った。照明をつけ、街で買っていたおむすび、ハンバーガー、サンドイッチなどを談話室のテーブルに乗せて、適当に食事を済ませ、明日食べる分は冷蔵庫へ入れて、足早に浴室へ向かう。

浴槽は2人がようやく入れるくらいの広さ。ハンスは体を洗いながら、ケビンへ話しかけた。

「終戦直後、製材所と洋館が建って、洋館は保養所としても使われていたけど、ある頃を境に使われなくなったんだよ。なぜかは知らないが!」

それを聞いたケビンは背筋が寒くなったので、明るい話題を振った。

「ハンスくんは恋人居るの?」

「居ないよ。ケビンくんは?」

「居ないよ。高校生になったら、恋人とクラウス市内のレストランで、お寿司を食べつつデートしてみたいな。以前、シアトル市には、ジャパニーズタウンがあったらしい。終戦直後には消滅したけど。クラウス市にも小規模ながらジャパニーズタウンにあったような店はあるんだよな!」

「ボクは恋人とステーキハウスへ行きたいな!」

「まずは恋人をも作らないとな!」

ケビンとハンスは笑いながら、些細ささいもない話をしているうちに眠くなってきた。

浴室を出て、寝室へ入ると夜10時を少し過ぎていた。

ケビンとハンスはそれぞれのベッドで寝そべってウトウト、次の瞬間。

落雷っぽい音とともに突然部屋が真っ暗になる。

「停電?」

ケビンは手探りで懐中電灯を手にし、部屋をほのかに照らした。

「まいったな!」

外は雷鳴らいめいが鳴り響き、雨音あまおとも強くなってきている。ケビンとハンスは暗黒の闇の中、懐中電灯のかすかな光が灯る部屋で眠る事とあいなった。


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