ショートショート「時間のかかる女」

tomo

第1話

女といえば、何かと時間のかかる生き物だ。とりわけ、私の妻はとにかく何事においても人一倍時間がかかる。



料理を作るにも、手を洗ってから皿が並ぶまでに三時間はかかる。できるまでに腹が減って、私はいつも間食で腹を満たしてしまう。



好きなテレビドラマを見るときだって話がなかなか理解できずに繰り返し同じシーンを見る。面白い場面だったのは分かるが、それを伝えるために何度も見せられるこちらの身にもなってほしい。



休日に出かけるとなると化粧と準備でさんざん待たされる。「あなたが一緒にいて恥ずかしくないようにしたいから」なんて言うが、恥ずかしいなんて思ったことなんて一度もない。他人からの目線なんてどうだっていいから、もう少し長く出かける時間を楽しませてほしい。



最近は輪をかけてひどくなってきた。「十時にはそっちに着くから」とベッドで待っていると、一時間の遅刻は当たり前だ。「暇にならないように持ってきたんだけど、どれにしようか迷っちゃって」と言って両手いっぱいに本を抱えてくるが狭い病室にそんなに置く場所はない。たまに差し入れの薄味の弁当を持ってくる時もあるが、話を聞くと朝早くから準備をしているようだ。そして、病室にテレビのないのを気遣ってか、毎週見ていたドラマの話を詳細まで延々と笑顔で聞かせてくる。自分の時間なんてほとんどないだろうに、美しい姿は変わらない。



本当に、私の妻は何かと時間のかかる女だ。

良かったことと言えば、私より、死ぬまでに時間のかかることくらいだ。どうやら私は先が長くないらしい。私が去った後、せいぜいゆっくり時間をかけて、自分の人生を楽しんでほしい。





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