マグロ・エゴイスティック 9

 任務はこうして完遂された。

 東京コロニーへの帰路に就いた『しきね』の食堂で、部屋着に着替えた誓は本日2本目の瓶ラムネを頂こうとしていた。

 時計は午後11時を指していた──満里奈はもう寝ている。

 誓もじきに眠るつもりだ。


「園寺准尉、ご苦労だったな」

「! お疲れさまです」


 そこへ同じく瓶ラムネを持った安曇船長がやってきた。

 作業着姿の彼女は立ったままラムネの栓を開けると、またしても景気よくイッキ飲みした。

 

「見事な戦いぶりだった」

「ありがとうございます」

やからがパイルバンカーなんぞ持ち出したときには、流石にハラハラさせられたがな。噂で聞いたことはあったが、まさか本当に作られていたとは」

「たはは……」

「まあそれはさておき、これからも頑張れよ。あれだけ強ければ何だって、誰だって護れるさ。それじゃ、おやすみ」


 安曇船長はそう言って、誓の肩をぽんっと叩くと、船長室の方へと去っていった。

 食堂に一人残された誓は、「おやすみなさい」と言って、安曇船長を見送った。

 そして彼女の大きな背中が完全に見えなくなってしまった頃。


『誓さんの「法」は「何か満里奈を手に入れること」』


 ……と。

 何故だか、そして唐突に、瀬戸船長の言葉が思い起こされてきた。


『ちょっと強引でエゴイスティックなところもありそう』


 ……などと。


(しょうもな。だったらなんなの?)


 誓はそう心の中で独り言ち、その思考を斬って捨てた。

 そうだ。

 こんな言葉は所詮、頭のイカれた社会不適合中年親父の妄言に過ぎない。

 特にこれといった根拠の示されていない、取るに足らない言葉なのである。

 元人事部だとか言っていたが、それが一体どうしたというのか。

 気にするだけ無駄なものである。


 だが、しかし。

 そんなひたすら下らないだけの放言が、一体どうしてこのようにフラッシュバックしてきたのだろう、というある意味当然の疑問は。


 誓自身も抱いたのだが、わざと見て見ぬ振りをした。

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