マグロ・エゴイスティック 7-3

 甲板上を黒煙が覆う。

『誉』でその煙を斬り払うと、今の攻撃の正体がすぐに明らかとなった。


 それは瀬戸船長の身体に取り付けられた──否。

 瀬戸船長取り付けられた、異形のパイルバンカー兵装システムであった。

 

 使い物にならなくなった左腕を完全に肩口からパージし、そこに専用の義肢とパイルバンカーを接続。

 背中と両脚にはロケットブースタがいくつも取り付けられている。このエンジンで使用者の身体ごと急加速しつつ重金属製の杭を撃ち出し、その莫大な運動エネルギーによって対象を跡形もなく粉砕するというものだろう。


にっしんじゅうこう製、203ミリ炸薬式突撃槍『コルセア』。名古屋の変態技術者どもが内務省向けに試作したがボツんなり、かられてまった不遇の傑作。そして俺の“とっておき”……!」


 真っ平らになった上甲板の向こう側で、瀬戸船長は笑った。

 その口からは吐血するかのようにオイルが漏れていた。

 鼻からも。目と耳からも。


「どうせ捕まってこれで終わるんだで、出せるもんは全部出さにゃ勿体にゃァわなァ。チカイさん、あんたの“とっておき”も見してちょーよォ……!」

「……このいかれポンチめ。分かりました、見せてあげます。私のとっておきの魔法」


 誓はその狂った男と対峙しながら『誉』を振り上げ、ひだりじょうだんに構えた。

 そして最大の最大まで魔力を励起。

 船上を紫の電光で染め上げていく。


 これは刹那の見切りだ。

 お互いの最速かつ最大の火力を撃ち合って、どちらがより早く相手に触れるかの勝負だ。

 その勝負は一瞬で決まる。


 そう確信した誓は自身が持てる最強の魔法を起動した。

ヴァイオレットレール・インパクト〉。

 己の身体そのものをの弾となし、魔力の限り加速しながら突進するという近距離白兵魔法の奥義の一つだ。

 理論上その加速値に上限はない。

 

 詠唱コールは無用。

 確固たる意志の下、絶対にこの魔法と一太刀で敵を討つ。


 誓の周囲の電撃が凪いだ海のように完全に鎮まっていく。

 それは誓の身体を両側から挟み込むような二本の不可視のレールが敷かれ、彼女を極超音速マッハ20で発射する準備ができた証である。

 他方瀬戸船長も機体の冷却を終え、再度の攻撃の構えに入っていた。

 左腕を矢のように引き絞り、パイルバンカーの先端を誓に向け、体を半身にして視線で照準を定めてくる。

 先程までは常に優しげに細められていた目は今や開眼し、ギラついていた。


 息をはらで吸い込み、せいたんでんへ送る。

 視線を送り返す。


 目と目が合う。

 殺気が。




 爆ぜる!!




 轟ッッッ!!!!!!


 と。


 瀬戸船長のロケットブースタに火が点き加速を始める!

 白熱する赤い爆炎が彼の背中からいくつも噴き出し、ジェット戦闘機のような衝撃波を発生させながら、弾道ミサイルのように突っ込んでくる。

 心底楽しそうに笑いながら!

 コンマ02秒後に誓も飛び出す。

 右足から踏み込みながら溜め込んでいた電撃エネルギーを開放する。

 絶大なローレンツ力によって見えないロープで引っ張られるかのような加速度がかかり、雷光のごときスピードで瞬く間に瀬戸船長との距離を縮めていく。

 そして『誉』を振り下ろす。

 パイルバンカーが襲い来る!

 すれ違う。

 轟音!!

 まるで落雷とロケットの打ち上げが同時に起きたかのような。

 そして赤茶けた液体が甲板上に飛び散る。

 倒れていたのは。






「…………終わった。こんで俺も、ホンマに終わりかァ…………」

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