メイジック・イズ・ザ・リアル 1-2

「あっれぇ~? 意識あるっぽいんだけどなんでぇ~???」


 それはとんな見てくれをした女の二人組だった。

 一方は満里奈よりも濃く焼いた肌とブロンドカラーに染めた髪のわば黒ギャルで、今しがたデカい声で何か言いつつ首を傾げていたのはこちらの方だ。どこかの高校らしき制服を着ていたが、シャツの前をめちゃめちゃに開いてブラジャーを見せつけまくっているわ、スカートはパンティーがモロに見えるほど短いわとと、まるで男性向けアダルトビデオにでも出てきそうな見た目であった。はっきり言って頭は悪そうだった。

 もう一方は黒い長髪に紫のメッシュを入れ、フリルだらけの黒いワンピースに身を包んだ所謂いわゆるゴスロリであった。両目の下の深いクマがそこはかとなく“病んだ”印象を与えてくる。

 

 まるで正反対の見た目をした二人組だった。

 だが、女という以外にも一つだけ共通項があった。

 それは手に持ったステッキだ。銀色の金属で作られ、持ち手のところが黒い樹脂のカバーで覆われている、長さ40センチほどの工業的な物体。先端に向かうにつれ直径が細くなっていっており、所々に節が見える。恐らくは警棒のような伸縮式なのだろう。

 首を傾げている黒ギャルに、ゴスロリが機嫌の悪そうな低音で返した。

 

「ちゃんと〈ヒュプノシス〉撃ったの? 履歴見てみなよ」

「撃ったはずだけどな~」


 黒ギャルはステッキを逆手に持ち替え、持ち手の先からホログラムを投影した。

 その内容は誓には見えなかったが、黒ギャルはその画面を確認すると、


「あーっ!」


 と再びデカい声を上げた。


「〈パラライズダウン〉撃っちゃってんじゃん……ドジッたわ~」

「全く……使って何度も言ってんのに……」

「ごめんち♡」

「仕方ないなあ……」

(……………………はぁ……???)


 意味不明の極致。

 この頭の悪そうな連中が一体何を言っているのかまるで理解できなかった。

 魔法。

 ゴスロリはいま確かにそう言った。

 黒ギャルもその言葉をごく自然に受け止めていた。

 だが言うまでもあるまい、魔法なんてこの世に存在していないということは。

 魔法が存在するのは神話・伝承やフィクションの中だけだ。エルフやゴブリンが実在していないように、魔法も、魔法使いも、この現実世界には存在しないのである。

 なのにこの二人は何を言っているのか?


「まあでも、別にいいっしょ? 動けないのに変わりはないんだしさ」

「それもそうか」


 黒ギャルがしゃがみ込んできて二人の顔を交互に見た。

 ゴスロリもそうした。


「じゃあもう、さっさと“お持ち帰り”しちゃおうか」

(!?)

「そぉしよ! さぁーて、楽しい夜が待ってるぜ♡」

「このスケベ……一応“売り物”なの忘れないでよ」

(!!!???)


 ……誓には、まだ事態の全容が呑み込めていなかった。

 しかしこの“魔法使い”とやらが何を考えているのかなら、もう明確に分かりきっていた。

 逃げろ! 逃げなくては!!

 脳がそうアラートを発し、目の前の危険を回避しろと喚き立てる!!

 だが……手も足も、指先一つまでも、ピクリとも動いてくれない……。

 声を上げることすら叶わない……!


「怖がらないでいいからね~♡」


 黒ギャルがポーチからジャラジャラと音のする何かを取り出した。

 なされるがままに身体を転がされ、腕を掴まれ、手首にそのジャラジャラを、つまりは手錠をかけられる。

 もちろん満里奈にもだ。ゴスロリが満里奈に触れているのが音で分かった。

 

(!? このっ……この、くそったれども!!)


 不安と困惑と恐怖が怒りに変わった。

 満里奈に、自分の大切な幼馴染に薄汚い手で触れられている。

 そしてその手はこれから、彼女を……犯そうとしているのだ。

 許せるわけがない!!

 ……だがその怒りの炎は、ただ誓の心の中でくすぶっていることしかできなかった。

 瞬きすることすらできないのに、一体何ができようか?


 だから誓は祈った。天の神様に必死で祈った。

 お願いですから、どうか私の大切な満里奈だけでも護ってくださいと。

 いっそ私はどうなってもいいから、このくそったれのクズどもに然るべき天罰を下してください、と。


 そして。

 その祈りは。

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