ファースト・ステップ 4-1

「どうもこんばんは」


 こちらを振り向いた佐藤に、夏海が挨拶をした。


「グリーンプラネット・アライアンスの佐藤淳さんですよね?」


 夏海は両手を後ろ手に組み、少し首を傾げ、少女めいた印象を与える高めの声で問うた。それと敬語。対象を無闇に刺激しないための、夏海ならではのコミュニケーション術である。

 佐藤は何とも言わずに目をパチクリさせ、困惑をモロに滲ませた。どうやらこの白制服を、つまりはANNAを知らなかったらしい。

 夏海はペンダント型IDから身分証を投影して所属とかんせいめいを名乗り、自分たちがいわゆる“魔法使いの警察”であることを説明した。


「は、はぁ…………………………って、け、警察!!!???」

「逃げますよ佐藤さん」


 酒をあおっていた密輸業者の女がすっくと立ち上がり、スーツの懐に右手を突っ込んだ。

 そこから取り出されたのは円筒形の何かだ。女は手早く安全ピンを抜き、その何かを放り投げてきた。

 真っ白な煙が即座に神社のけいだいを満たしていく……!

 目くらまし用の発煙弾だ!


「このっ、逃がすか!」


 夏海は手刀で煙を切り払った。火炎の魔力を込められたそれはごく小規模な爆発を連続的に起こし、境内に満ちる五酸化リンの煙幕を晴らしていく!

 ……が、そこにもう佐藤たちはいなかった。

 辺りを見回す。するとちょうど境内の入り口付近に捨てられていた自転車に二人乗りして全速力で走り去っていく姿が見えた。

 一足遅かった……!


「追うわよ!」


 残された一般人ノーマルの手下たちに構うことなく、夏海は自転車を追いかけようとする。

 了解、と返事をして誓と満里奈も駆け出そうとした、が!


「ひゃ!?」

「わっ!?」


 誰かに不意に襟首を掴まれ、身体を無理やり後ろに引っ張られた!

 二人の頭の上で男たちの声がハモる、


「「よく分からんけど兄弟ブラザーの邪魔はさせねえ」」


 と。

 誓が顔を上げて見てみると、双子のようにそっくりな──というか実際に一卵性双生児であろう香水臭い男たちが、自身と満里奈を捕まえていた。

 二人ともアメフトでもやっているのか日本人離れした巨躯を誇っており、特に満里奈なんかはもう女児にしか見えないほどだ。


「放しなさい」


 夏海が低い声で言うが、双子の男たちは「「ダメだね」」とだけ言い、プラスチック製の物体を誓たちの首筋に押しつけてきた。

 マイクロジェットを用いた無痛注射器である。これで麻酔か何かをかけるつもりなのだろう。

 瞬時にちゅうちょなくトリガーが引かれる。ぷしゅっ、という小さな音とともに内容液が噴射され、誓たちの体内に痛みなく入ってくる。

 くくっ、と男たちは下卑た笑みを漏らした。いくら魔法が使えるとしても結局は人間、それも小柄なメスだ。こうしてクスリを使われればもう何もできなく──

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