群青の種

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第1話 そういう種じゃねえ

私は笹木憂也、今日から高校1年生。


もし突然お母さんができたらどうすればいい?

本人は「お、お母さんはちょっと早いかもしれないし、由香里ちゃんでもいいよ、生活のサポート私に任せてくださいね、憂也。」と言ったけど。


今日は晴れです、でも天気は裏切るかもしれない、朝起きたらまず天気チェック、学校事前準備チェック、リュックチェック、片付け終わってから、7時16分部屋から出るのが私のルール。

備えあれば憂いなし。


窓からは4年間ずっと見てきた景色、今更再チェックしなくても逃げたりはしない。そもそもここは15年間暮らした町だ、引っ越しはあったけど、愛しさもあって、悔しさもあって、同じ町だ。


「おはよう、憂也。」

階段から降りて、由香里さんの挨拶はまるでそこで待っていた。

彼女は朝倉由香里、25歳、一昨日お父さんがいきなり再婚して、結婚式もなしに、私にも一言言わずに、連れて来た女性。

「おはよう。」

「今日の準備はどう?私にもっと頼ってもいいのに。」

由香里さん自称生活サポーター、職業はデザイナー、見た感じは仕事はやそうだし、家事はそこそこできる、料理は普通、でも頑張ってるのは分かる。不満と言うなら、静かすぎる。

いつの間にか出かけて、いつの間にか帰ってくる、掃除洗濯すら雑音控えめ、たまに照れてる顔してこっち見てるけど、そんな顔出見られたほうが恥ずかしい。


「大丈夫問題ない。」

「へーい。」彼女は頬を膨らませ、朝食を持って来た。

いただきます。ことの言葉を言う習慣は5年前から捨てた。


ここ2日の挨拶はこんな感じです、外出の場合は帰ってきたらもう一回するだけ。彼女は気にしない様子だけど、現状一緒に暮らしてる以上、このままだと空気が悪すぎる。今日帰ったらなにが話そう。話題は学校に行ってら考えるか。


ドードドド、ードドド。

「あら、こんな時間、憂也の友達?」由香里さんは即ドアに向かうよう立ち上がった、まるで準備してたような、椅子は音すら鳴らなかった。

「あ、多分彩花だ。」いつもより早い時間に来てる。


「やほー…?」

「どうもはじめまして、朝倉由香里です、憂也がいつもお世話になりました、つまらないものですが、どうぞよろしくお願いしますね。」

プレゼント?私は朝食しながら耳を傾いた。

「は、は、はじめまして?!栗宮彩花です、ありがとうございます、よろしゅく、お、お願いします?」

彩花もさすがびっくりするよね、まだ由香里さんの存在知らせてないからな。

「上がってください。」

「お、おじゃまします。」


テーブルを囲む3人、私はなぜかニヤッとしたくなってきた。

隣は眩しく微笑む由香里さん、向こうは私にモールス信号でも送りたい彩花。

おい憂也!この女誰だよ!っと。

反応しろよクソ憂也!バカ憂也!憂鬱憂也!っと。

誰一人も口を開けなかった。


「彩花、行こう。」7時52分出かけるはいい始まりの秘密。


4月はまだ冬の匂いが残っていた。息を吐くと少しくもるような温度、人々がゆっくり歩いていたような錯覚。感じてはいないけど、寒さが体に滲みっていたからかな?

時の流れが緩く、蒼い空に飛行機雲が数本渡っていた。風の温度はほろ酔くて冷たく、でも手から伝わって来た温もりは胸まで届ける。

鼓動の音がした、新学期の初日の挨拶だ。

こうやって私は彩花と、長い道を歩き始めた。


彩花の長めのため息が見送り視線線から抜けた合図。

「先の顔は最高だった!」私はゲラゲラ笑った。

もし朝賞味期限切れた牛乳を飲んたあと、トイレようやく見つけたのに、空いてるところがなかったら、私もそんな顔するかな。

「なんで返事くれなかったよ!このー!」

「いたっ!」

「誰だよ由香里さん!」

「足踏むな!」

「バカ!」彩花は急に私の左腕を組んで、頭を下げた。「確かに美人だし、同じ茶髪だけど私より長いし、胸もあるしでもあたしだってまだ成長期だし、でも時間経歴ならあたしのほうが上…」

「お母さんだそうです、由香里さん。」

「そう、年上の彼女はありえないよね。大学生っぽいけど、そんなに年の差なくても…え?!」

彩花の足は止まった。

「え、ちょっ、お母さんって…おっさんが?」

「あ、一昨日急に連れて来て、そのまま海外出張でさ、こっちが困るつうの。」

「へーそもそもなんであたしにメールしなかった?」

「何を言えばいいかわかんないじゃん…」

「ふーんだ。」彩花、曇から晴れそう。「まあいいけど、でもそんな美人さんと同棲はね…変な趣味目覚めたらどうするの?」

「ねえよそんな趣味。私を誰だと思ってる?」

言葉を聞いた彩花は足を一瞬だけ止めて、茶色の髪が光ににあたって赤く染める、口元が少し笑ったように見えた。

「え、あたしに言わせるの?」

新学期早々幼馴染からかう彩花であった。

「なら言うな。」


学校は私の家から歩いて23分、位置は東北、途中までは線路2つと橋1つ渡って、最後は長いけど緩い坂道、一年目は彩花と別クラスになった、だからこの23分は、もっと大事にするつもりだ。

贅沢は言わない、高校はこれでいいんだ。


私は1-Bで彩花は1-D、クラスに知り合いは0、逆に彩花のクラスは知り合い2人もいた。

「そっちは楽しいけどこっちは楽か…」

等価交換ってやつかもしれない。


午前は定番の自己紹介HRからの授業、担任は天野結先生、自己紹介の時は「ピカピカの29歳、独身です!」とおっしゃっていらっしゃいました。

あ、まばゆい29歳だ!


彩花とは昼自由行動、放課後は一緒に帰るとの予定。

自由行動と言っても、彩花から弁当もらったし、サクサク食べ終わって、校内探し回ったところ、静かになれそうかついいところはまだ見つからない。人気スポット屋上は出会いを求めるバカばっかり、大きな日陰のあるところも人混み、緊急階段も頭だらけ、みんな青春したいよね、暇もしたいよね、欲張りだけど分かる。つまり気心地よく休めたい私は、今度未知の領域開拓するしかないのか?勘弁してくれ…


「おっす、笹木、俺も一人だ」

隣の席に座ってきた金髪少年、名前は確かー

「栄門さんもですか、一人でもいいんじゃない、その分平和ですし。」

「さんはいらない、でも秀明だけはやめて。」

栄門秀明、違う時代の人みたいな名前だ、言ったら失礼だけど本人も自覚あったらしい。

「栄門はどこから?」

「東京、だから本当に一人。」

「へー大変そう、まあ何があったら私に聞いてもいいよ、答えられるならな。」

友達作りの基本は先に善意を渡すこと。

「おお、助かる、お前いいやつだな。昼飯食った?なかったらこれ半分やるよ。」

「ああ、大丈夫、弁当済みです。」

栄門は「あ、そうか」の顔して焼きそばパンを捕食始めた。

焼きそばパンってみんなご存知ですか?そこそこの太いのパンが、焼きそば挟んったやつ。

ここで捕食についてですが、カバが、スイカを割る感じでした。

都会から来たやつの面構えがやっば違うな。

でもなんとなく面白そうな人で良かった。


初日の昼休みは教室で世間話の中で無事終了した、でも気になったことは一つあった、休憩終わる前、懐かしい叫び声が聞こえた、1-Cを渡ってここでもはっきり聞こえる、あれは彩花の悲鳴だ。

メールで聞いたけど、大丈夫ですっとの返信が来たから多分一安心。


放課後は掃除担当チェック、宿題内容再チェック、やり残しがないように、全部確認終わったら帰宅のが私のルールです。

「よし!」彩花迎えに行くか。


時は夕方、冬の匂いがまだ完全に溶けてない、オレンジ色に染まる空、少し騒がしい教室と廊下。

そう、高校はこれでいいんだ。


『1年B組のさS…』

『え、天野先生、こんなことはここで呼ばない…』

『え?そうなんですか?』

『ってマイク切りなさい!』

『ビ―――』


全校生徒も気がついた、先ほどの異常、普段こんな呼び方はまずない。


私、こんなに注目されたのは初めて。初日故、ウロウロする人も多い、教室だけじゃなく、廊下からも目線を感じた。


いや…聞き間違いじゃないよね、1年B組で「さ」始まりの人は私ともう一人の女子坂町さんしかない、2つの音がSの時点で私確定じゃないか!

教務室不可避、これはもう避けられない!

心当たりも一つだけ、そう、彩花の悲鳴。最悪を予想すれば大丈夫、停学処分以上にまずいことにはならない、最悪を備えあれば、憂いなし。


「笹木おまえ…」先に声を出したのは驚いた顔してる栄門だ。「やるな、見直したぞ!」

「…」都会BOYの考え方がよく分からん!「大丈夫、きっとなにかの勘違いと思う。」

「あの子は知り合い?」

「あの子?」

「5限の時噂の子、確か栗宮。聞いてなかった?」

「あ、ええ…なんがあった?」大体は予想通り。正直途中の休みは半分寝てるから人がなに言ってるかも全く聞いてなかった。

「まあ、噂じゃやばいけど…」栄門は何故か露骨にニヤッとした。「実際教務室行ったほうがはやいかも。ご武運を。」

「は…」


私はあえて、視線を下げ、ゆっくり、平然と廊下へ向かって、そして教務室向かって潜っていく。


「あ、笹木くん、ちょっと来て。」

ピカピカの天野先生到着。おかげさまで予想より早く教務室に到着のはずだが。

「先生、ここ校長室ですよね。」

不覚!

「そう、はやく入って。」

先生は天使のような笑顔を見せました。


入った瞬間すぐ空気の軽さに気づいた。校長先生が笑ってる。

それでも校長室来る時点がもう十分重い。


「笹木くん、これは知ってるか?」話しかけたのは校長先生。

「は、はい。」

テーブルに手のひらサイズの箱がある、隣にペーパーリボンが置いてるから判断すると、多分今朝彩花が由香里さんからもらった、プレゼントと思われるものです。

「これは停学処分だ!」学級主任山崎卓、怒る!

「落ち着いて山崎ちゃん。彼の話を聞いてからでもいい。結ちゃんもそう思うよね?」

学級主任ちゃんつけか、さすが校長藤原一心先生です!

「そんで、あなたが彼女に送ったのか?」

「違います、お母さんが送ったものだと思います。実際見てないので分からない。」

「彼女とはとはどんな関係?」

「付き合っています。」

「おっと即答?若いのはいいね。」

今私がこれくらいできないとな。

「新入生初日でいい度胸だな!」

学級主任の目から火が見えそうだ。

「落ち着け山崎ちゃん、あんたも高校時代彼女一人や二人つきあった経験あるでしょう?」

「いえ、そんな経験はありません。」

「じゃ彼を見習え、三十後半なのに相手もいない何で、だから国の未来を渡せないのだぞ。」

「校長先生…!」

校長先生は手お上げ、学級主任の言葉を止めた。

「笹木くん、中身見たか?」

「いえ。」

「そうか、じゃ見てみな。」

「はい。」

不安がないと言ったら嘘です、そのサイズの箱に入れるもの、かつ先生を怒らせるもの、しかも都会BOYがやばいといえるほどのもの…

エロ写真撮ってないからまずありえない、親しく登校はいつも通りだし、キス?正直キスくらいが限界じゃない?それ以上やってないし。

いや、写真限ってもないし、もしかして…手のひらサイズに入れる、柔らかい布製品なら…


私はまさに全校生徒前公開処刑されたようなものじゃないか!

私は箱をとって、ゆっくり箱の蓋を開けた。

変態になる準備などするやついるわけない!


あれ?


デュレックスコンフォート!


いやいやいや。

蓋閉めて、もう一度ゆっくり開けー


デュレックスコンフォート!!


なるほど、だから彩花は一言も出ないわけだ。

もう一度、蓋閉めて、そして開けー


デュレックスコンフォート!!!


叫ぶなテメェェー!

こんなもの見たら言葉でるわけねぇんだ!


「分かったな笹木くん?」

「そ、その、処分は私が受けます、彼女とは関係ない、お母さんが勝手に巻き込んだだけです。お願いします!」

結果的に最悪の結果、停学予想はしたけど、初日で来るとは、少し残念。

「あんた一人で処分受ける?それじゃ示しにつかん!」学級主任もこんなに怒るわけだ。

「山崎ちゃん!何度も言わせるな。」校長先生の言葉を聞いて学級主任が座り直した。「母が送ったことは、少なくとも笹木くんの親から許可もらったわけだ。」

校長先生が突然笑った。

「栗宮ちゃんももらったものだと言ったし、でもね、夜2人キリはともかく、公然の前は出さないこと、いいか?」

「は、はい…?!」頭が少し混乱して一瞬校長先生の言葉を理解できなかった。「はい!」

「よし、ペナルティーは…結ちゃん、何が面白そうなことある?」

面白そうなペナルティーって、まあトイレ掃除レベルならよろこんでやるけどな。

「そうですね、じゃ二人とも生徒会に入ってもらおうか!」先からずっとニヤニヤしてた天野先生は両手を合わせ、私に異常に熱い目線を投げてきた。

「おお、いいね、じゃそうするか。」


事の終わりはラジオで生徒に説明、事件は悪戯の誤解。

そして私と彩花へのペナルティーは生徒会に入ること。


私にとっては、やむをえない。

特に気になることなら、諸悪の箱を回収して、彩花の手をとって校長室から出たとき、なんとなく、彩花の手がいつもより熱く感じた。


あとは、由香里さんと話せるの話題などはもういい、それより説教が必要だ!説教!

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