夢幻

夜夢路

出逢い

自分は誰かを好きにはなれない。

だから例え、心を奪われたとしても、必死に抵抗する。

だって、心の中には、あの人とかわした約束があるから。

だけどこの想いはあの人に、伝わることは二度とない。

それが悔しかった。



僕は晴れて、来年から大学生になる。

高校3年生で猛勉強して、なんとか受かった大学。

両親はとても喜んでいた。

「春斗よくやったな。さすが私の自慢の息子だ!」

と父は言った 。

「お祝いに、春斗の好きな料理を沢山作りましょうかね」

と母は、腕まくりし夕食作りに取り掛かる。

その日の夕食は母の言葉通り、僕の好物で埋め尽くされていた。

「いやぁ本当によくやった、これで春斗も晴れて来年から大学生だな」

頑張れよ!と言いながら父は、ビールをぐいっと飲み干す。

「まぁ..お父さんったら、よっぽど嬉しかったのね」

と母は笑いながら僕を見る。

「そういえば茜ちゃんと、時雨君も同じ大学なのよね。不思議ね。三人共、同じ大学に進むなんて。」

と母は、笑みを浮かべながら告げ台所へと消える。

茜と時雨は、近所に住む幼稚園からの幼馴染だ。


湯口茜と天谷時雨

僕達三人は元々父親達が同級生らしく、その関係で両親同士の仲が良かったので、自然と一緒にいる時間が多かった。

小中高と同じ学校に通い続け、大学も一緒に行くこととなり、自分自身も驚いている。

ふとそんなことを考えると、突然父親が

「春斗お前は明日入学式なんだから、早めに寝るんだぞ」

と少しだけ酔っているのか、呂律が回っていない様子だった。

時計の方を見ると、9時を過ぎていた。

確かにご飯も食べて、少し睡魔が襲ってきている。

ここは素直に、父の言葉に従うことにした。

「そろそろ寝るよ」

と両親に告げ、自分の部屋に戻りそそくさと、ベッドに潜る。

ご飯を食べ、眠くなっていた頭は直ぐに、夢に誘われる。



今日の夢は、不思議だった。

僕は暗闇にいる。

周りには何にもない。

ただ向こう側に、白い光があるだけ。

僕はどうすることもなく、ただその光を目印に、

彷徨いながら歩いていく。

やがて、いつの間にかその光にたどり着いていた。

その光に触れてると、周りが壁一面、白い世界になる。

暗闇を見た眼には、少し眩しい。

少しして、眼が慣れると、辺を見渡す。

すると、後ろに一人の少女が立っていた。

さっきまで、居なかった存在に僕は驚いた。

「こっちに来て」

少女はまるでそう言っているようで、僕の身体は操られ人形のように、ただ少女の方に進んでいく。

近くに来ると、少女の姿がはっきりと眼に映しだされる。

少女はかなり美人だ。

少女と呼ぶには大人のように感じる顔立ちだ。たが背丈は150あるかどうかぐらい小柄。

その小柄の体に綺麗な白いワンピースを身に纏っており、その白さに負けないぐらい白い肌、金色の髪、甘い蜂蜜のような瞳。

まるで、天使を彷彿させる儚い見た目の少女に、思わず見惚れる。

少女は、天使のような綺麗な声で

「貴方は春斗?」

と首を傾げながら尋ねる。

僕は驚いた。

「なぜ僕の名前を知っている。君は誰なんだ。ここは何処だ」

感じている疑問を少女に尋ねた。

「そんなに一気に質問したら、混乱しちゃう。質問は一日一個まで。」

少女は僕の顔を上目遣いで見つめ、微笑みかける。

その仕草にドキッとしながらも、言われた通り質問を絞る。

「じゃあなぜ僕の名前を知っているんだ。」

僕は必死に絞り出した質問を彼女にする。

少女は、フフッと笑いながら、

「だって、ずっと貴方の事見ていたんだもの」

と何でもないようことのように言う。

予想もしてなかった答えに、背筋が凍りつく。

ここは夢の中だ。僕の名前を知っているはずが…。

「短い時間だけど貴方に逢えてよかったよ。それじゃあ、また逢いましょう。」

彼女はすぐに会話を閉じようとする。

「ちょ…まだ話は終わって…」

言い終わらないうちに彼女は姿を消していた。

同時に僕の瞼も落ちる。

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