ラムール
……傷口が、熱い。
僕は一体どうなってしまったのだろうか。
ルドルフ様に剣が振り下ろされそうになって、気が付けば身体が動いていた。
右肩から左腰にかけて、一本の線が入ったように身体が焼ける。その線からだんだんと力が抜けていき、もはや指先を動かすこともままならなくなってしまっていた。
直感的に、僕は助からないのだと思った。
前もこんなことがあった。生死の境をさまよって、そのあとエンメルトから、長々と説教を聞かされたのだったな。
キインと響く耳に、罵声と、何かの叫び声が入る。かろうじてまだ意識と五感は働いていた。
彼女は、マシェリーは大丈夫だろうか。こんな時にも脳裏によぎるのは、何度もこの目に収めた彼女の姿だった。
すまない、君に追いつく事はできなさそうだ。
彼女は優しい人だから、僕が死ぬことによってどんな感情を抱くのかは目に見えている。きっと自分に責任を感じ、どこかでまた、雨に打たれて雫をこぼすのだろう。
もしもそんな不幸な予想が当たってしまうのならば。僕のことなんて、どうか、綺麗に忘れてくれ。
「おい! ラムール! しっかりしろ!」
ぼうっとしていると、目の前に、ひどく心配そうに眉を寄せたルドルフ様の顔が映った。
「この馬鹿! 大馬鹿野郎! どうして私を庇ったりなんかしやがった!」
その声は悲哀にあふれ、少しばかり上ずっている。こんな声は、もう聴きたくないと思っていたのに。
「…ルドルフ、様……奴は」
うまく言葉を発せない。
「お前のナイフで刺した。そこでうずくまっている…。そんなことより、早く治療を!」
ルドルフ様が自身の衣服を破いて、僕の傷口に当てた。しかし、その圧は感じるものの、そこに痛みを感じることはない。
それに、さっきまで感じた熱さはなくなって、今はひどく冷たく感じる。
「……クソ、クソ、クソ! お前まで私の前からいなくなるつもりか! そうはさせない、させない…!」
「…ルドルフ、様……」
「黙れ! 今お前に与える命令は一つだけだ…死ぬな!」
もう何度も与えられた命令のなかで、こんなにも難しいものは初めてだ。いつもならば当然のようにイエスと答えることができるのに、今は心のどこかで無理だと返してしまう。
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