1章

転生

第1話 追憶

 いい人生だった


 その一言に尽きる

 文句の言いようもない人生だった



 中学生の時は自分の存在に何か違和感を感じていた


 何か変わったことがしたかったわけじゃない

 ただ自分を誇示したかった


 周りと同じ自分じゃない


 そう思いたかった


 今思えば厨二病の一種だろうが、今もその思いはどこかに残っている


 自分は人生の主人公のはずだ


 だがどこかにきっと世界の主人公がいて、俺はその脚本の中にも存在しない


 もはや描写もされない画面の外にいる存在

 そんなふうに考えてしまっていた








 裕福な家に生まれ優しい父と母に恵まれ、一人っ子であるため親戚からたくさんお年玉をもらえた


 そのおかげで幼い時からお金をたくさん持っていて、お金に困ったことなどほとんどない


 大した勉強はしなかったが大学付属の高校に入りそのまま進学した



 大学卒業後は父の仕事を継いで働き出した

 

 最初の頃は苦労したが案外すんなりと覚え、楽をして年を重ねた

 30代になった頃から本格的に仕事の引き継ぎを行い、俺が主導で仕事をするようになった


 親の会社を大きくすることはできなかったが、かといって潰すわけでもなく大きな変化がないまま時間が過ぎた



 結婚はしていない


 いや、出来ていない


 言い訳をすれば合う人がいなかったからだ


 みんな舞台の外で人生を終えようとしている


 それを見ていると少し馬鹿馬鹿しく感じてしまったんだ



 もちろん俺が間違っているのだろう


 俺が社会不適合者なのだろう


 分かっている、分かっているつもりだった


 

 


 どこかに光を感じた


 まるでスポットライトかのような光を

 その光は俺がずっと望んでいたものでもあった


 光りにつられて歩いた

 夢を掴もうとする若者のように

 自分の年を忘れて歩いた


 そして歩く、歩く、歩くずっと歩いた先でついにスポットライトを放つ物を見つけ飛び出した


 そこにはなぜかトラックがあった



 まばゆい閃光が俺の体を包む


 ほんの少し前まで鬱陶しいぐらいたくさんの音 を耳にしていたが今では恐ろしいほど静かだ


  なぜ??


 どうして?


 俺が探していたのはスポットライトの当たる舞台だ

 それなのになんでトラックの前に?



わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない??


 すぐそばに死が迫っているのを感じる


 それと共にまるでスポットライトがあたったかのような謎の高揚感も感じる


 ずっと望んでいたものを遂に掴めた



 そんなことを思っていると体に強い衝撃を受けて死んだ




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄





 それはとても長い、あまりにも長い長過ぎる夢だった

 葛城 翔馬という最後に夢を見て死んだ人間のこれまでを見た





 私、ラインリッヒ クイスタはクイスタ公爵家の長男であり才能の証である黒髪黒目をもっている


 クイスタ公爵家は帝国の建国当初から存在する貴族家ではなく、400年前の魔人との戦争の時に功績を挙げて叙爵された家であるため、現在帝国内に存在する三つの公爵家の中で最も歴史が浅い家だ

 しかし最も強力な力をもった家でもあり一大派閥を有している



 そんな公爵家の嫡子である私は生まれながらに多くを与えられ多くの期待を寄せられた

 

 剣術の鍛錬には大陸に名を轟かせる剣聖を、魔術の習得には魔術に優れているハイエルフの長老が教鞭をとった。


 優れた血筋を持ち強力な魔力を宿した私は、クイスタ公爵家の神童として知られ、少年少女部武術大会では、わずか10歳で優勝を果たした天才少年として有名である





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




 少し体を動かすだけでわかるが前世より圧倒的に身体能力が高い?いやいつも通り……なのか


 どうなっているんだ?


 記憶を思い出したのか?


 何の記憶か最初はよく分からなかったが少しずつ理解できてきた

 私、ラインリッヒ クイスタはこの葛城 翔馬という人間の記憶を手に入れたようだ


 特に人格的な変化はなく自分とは別の人間の記憶を見れるようになったといった感じだ


 と言うか何故私はこの記憶前世の記憶を思い出したんだ?


 考えれば考えるほど疑問が溢れ出し気づけば額に汗が浮んでいた

 呼吸も少し荒くなってきている


 これ以上無意味なことを考えても仕方がない


 ただ思い出しただけだ

 そして何も変わらない

 クイスタ公爵家の嫡子としてこれまで通り生きるだけだ


 少し落ち着きを取り戻した私は部屋に目をやる


 黒を基調とした部屋で純金のラインが施してあり貴族の権威を示しつつも上品さを残した部屋だ


 自分自身の部屋だ

 見慣れた光景のはずだがどこか目新しさと言うか、違和感を感じる


 ダメだな

 今はなにかおかしい


 部屋にある窓から外の景色を眺めると


 は?なんだこれは?こんなものが……?


 とてもこれが現実だとは思えない

 自分が今まで生きてきた記憶が拒絶する


 いや違う、あの記憶が拒絶する


 見慣れたはずだ

 毎日見ているはずのものだ


 もし違和感があるならそれは景色ではなく自分の目に原因があるのか




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


ルーン


 この世界の通貨。 1ルーンは1円と同じ価値である。 少し特異な性質を持つ


黒髪黒目


 才能の証。

 生まれつき保有魔力が高い証であり、黒髪黒目のものはほとんどが属性魔術の適正が乏しいが魔力操作に優れる傾向がある

 生まれつきレベル10以上であることが多く潜在能力も高いことが多い


少年少女部武術大会


 10歳から12歳の上流階級のものたち対象とした武術大会

 年齢の関係で大きな力の差が生まれるため歴代の最年少優勝者ですら11歳であり10歳での優勝は歴史的快挙




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