第107話 宿屋の騒ぎ

「こいつを使いこなせれば……」

「何だそれ?前に会った時は持ってなかったよな……兄ちゃん、腕手甲なんて持ってたのか?」

「これは闘拳だよ」



ネココは闘拳を初めてみるのか不思議そうな表情を浮かべ、コウは左腕を軽く動かして骨に問題はない事を確かめると、闘拳を装着して軽く動かす。



(さっきは上手く使いこなせなかったけど、これのお陰で助かったな)



闘拳がなければコウの左腕は更に酷い怪我を負っていたかもしれず、しばらくの間は装着したまま行動する事にした。はた目から見れば片腕だけ腕手甲を装着している人物に見られて辺に思われるかもしれないが、何時またオウガが襲ってくるのか分からないのでコウは念入りに警戒しておく。


大分時間は過ぎてしまったがコウは宿屋に向かう事に決め、黒猫亭という名前の宿屋にハルナが待っているはずなのでネココも会いに行くか尋ねる。



「ネココ、ハルナもこの街に来てるよ」

「えっ!?あのおっぱいがでかい方のエルフの姉ちゃんも!?」

「それ、リンさんの前では絶対に言うなよ……」



ネココはハルナもサンノに居る方に驚き、まさかこの街で三人が再会する機会が訪れたのは凄い偶然だった。コウは先にサンノに暮らしているネココならば黒猫亭の居場所を知っているのではないかと思った。



「ネココ、黒猫亭という名前の宿屋は知っている?」

「黒猫亭?ああ、それなら少し離れた場所にある……えっと、あそこの建物だよ」

「おっ……意外と近いな」



コウはネココが指差した建物を確認し、二人は屋根伝いに黒猫亭へと向かう。ハルナも来ている事を知ったネココは嬉しそうな表情を浮かべる。



「ハルナの姉ちゃんもここへ来てたのか。へへへ、何だか懐かしい気分がするな」

「あれから別にそんなに時間は経ってないけどね……よっと」



二人は人目の付かない場所に飛び降りると、黒猫亭という名前の建物へ向かう。しかし、何故か建物の前には大勢の人間が集まり、警備兵の姿が見えた。



「な、何だ!?何の騒ぎだ?」

「まさか……!?」



黒猫亭の前で集まった人込みを見てコウは嫌な予感を浮かべ、ネココも何が起きているのか分からずに戸惑う。二人は急いで建物へ向かうと、集まっている人間に何が起きたのかを問う。



「あの、ここで何かあったんですか!?」

「ん?ああ……何でも強盗が現れたらしいぞ」

「強盗!?この宿屋に!?」

「ああ、それも人攫いみたいだ。なんでも客の一人を誘拐して姿を消したとか……」

「誘拐!?」

「だ、誰が誘拐されたんだよ!?」

「い、いや……そこまでは知らないよ」



コウの嫌な予感は的中し、集まった人間によれば黒猫亭に強盗が現れて宿泊客が誘拐された事が発覚する。しかし、具体的に誰が誘拐されたのかは分からず、現在は警備兵が宿屋の主人に事情を聞いている最中だという。


警備兵は宿屋の前に集まって人が近付けないようにさせているが、建物の出入口の扉は無惨にも破壊され、まるで鈍器か何かで無理やり破壊したかのように扉の残骸が地面に散らばっていた。



「ほら、そこの君!!これ以上近付いたら駄目だよ!!」

「あ、あの!!俺、ここに泊まっている女の子の友達なんです!!ハルナというエルフの女の子は無事ですか!?」

「な、何だって?」

「通してくれよ!!友達なんだよ!!」



建物に近付こうとしたコウとネココを警備兵が止めようとするが、二人の言葉を聞いて兵士達は顔を見合わせ、すぐに確認を行う。



「おい、名簿を確認しろ!!」

「はい……えっと、ありました!!確かに昨日から泊っているハルナという名前の客人がいます!!」

「ハルナは!?無事なんですよね!?泊っていた人たちは……」

「お、落ち着くんだ!!すぐに確認するから……」



ハルナが無事なのかと焦りを抱くコウとネココに対して警備兵は保護した宿泊客の中からハルナらしき人物を探すが、しばらくすると警備兵の中でも一番年長者と思われる男性が二人の元に訪れる。



「彼等がそうなのか?」

「はい、どうやら被害者の関係者らしく……」

「被害者!?どういう意味ですか!?」

「落ち着きなさい、まずはこちらへ来なさい」



男性はコウとネココを招き入れ、人込みから離れると二人だけに聞こえるように声を小さくして話す。



「君達、本当にハルナという娘さんの友人なのか?」

「そうです!!今日ここで会う約束をしてたんです!!」

「姉ちゃんは何処だよ!?無事なんだよな……」

「そうか……確かに店の主人に聞いたところ、ハルナさんも後で店に友達が訪れると伝えていた。君達がそうだったのか」



ハルナはコウと約束通りに宿屋の主人に後で彼が訪れる事を伝えていたらしく、警備兵は二人の話を聞いてハルナの身に何が起きたのかを話す。それはコウ達にとっては最悪の答えだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る