第106話 ネココとの再会

――ネココはコウの元を去った後、別の街に逃げ込むために商団の馬車に乗り込む。そして彼女が辿り着いたのはサンノだった。この街ならばネココの顔を知る者はおらず、イチノの盗賊に怯えずに暮らす事ができた。


イチノから逃げ出す際にネココはちゃっかりと自分を殺そうとした盗賊相手から金を盗み、その金を使って宿屋で暮らしているという。流石の彼女も泥棒で生計を立てる事には懲りたらしく、現在は真面目に仕事を探しているらしい。



「まさか兄ちゃんとここで会えるなんて思わなかったよ。でも、相変わらず面倒事に巻き込まれてるんだな」

「うるさい、それよりもさっき俺を襲った奴の事を知ってるのか?」

「オウガ?あいつ、最近にこの街へ来たんだよ」



ネココによればサンノにオウガが現れたのは最近の出来事らしく、彼が何の目的で訪れたのかまではネココも知らない。しかし、彼は裏の人間の間では有名な存在になっているらしく、昔よりも恐ろしい男へと変貌していた。



「兄ちゃんもオウガの義足を見ただろ?あいつの義足、実は魔道具らしいぞ」

「魔道具?ただの義足じゃないのか?」

「あたしも詳しくは知らないんだけど、あの義足は魔道具の力で動かしてるみたいだ。しかも馬鹿みたいに頑丈で前にあいつに絡んだ盗賊が腹を突き刺されて死んだ事もあったみたいだよ」

「……マジか」



オウガが装着していた義足がただの義足ではない事はコウも薄々勘付いていたが、人間の腹部を貫通する程の硬度と破壊力を誇る事を知り、もしかしたら自分の腹も貫かれていたかもしれないと知ってコウは顔を青ざめる。


どのような経緯でオウガが義足を取り付ける事になったのかはネココも知らないが、彼女によれば現在のオウガはサンノの裏社会でも危険人物として注目され、彼が金属の義足を装着している事から仇名まで付けられている事を話す。



「今のあいつは「鋼脚のオウガ」と言われてるんだよ。前に兄ちゃんがぶっ倒した時よりも間違いなく強くなってる」

「……確かに」



以前に遭遇した時よりもオウガは危険な武器をにしており、もう一度戦えばコウが勝てる保証はない。彼が装備している義足型の魔道具は非常に厄介だった。


義足でありながらオウガはまるで本物の足のように巧みに動かし、コウ達が前に戦った時よりも厄介な存在と化していた。しかし、この街にオウガがいる以上は安心して過ごす事はできず、コウはこれからどうするべきか考える。



「警備兵にあいつの事を話して捕まえてもらうとか……」

「そんなの無理だって!!イチノの奴等と比べたらここの警備兵はマシな方だけど……オウガの奴を捕まえられる兵士なんていないよ。その証拠にあいつはまだ捕まってないだろ?」

「たく、何のための警備兵なんだか……」



ネココの発言にコウはため息を吐き出し、相変わらずどの街でも警備兵は自分達の役目をはたしていない事に呆れてしまう。警備兵が当てにならないのならば自分達で何とかするしかなく、ネココはコウに逃げるように提案する。



「兄ちゃん、悪い事は言わないから早く他の街に逃げなよ。あいつに見つかったら今度こそ殺されるかもしれないぞ」

「ネココは?お前だってオウガに狙われてるんじゃないのか?」

「いや、それがさ……前に偶然、顔を合わせた事があったんだけどあいつあたしの事を忘れてるみたいなんだよ」

「忘れてる?そんな馬鹿な……」

「本当だって!!あいつ、あたしの顔を見ても何にもしないで通り過ぎたんだってば!!」



オウガは元々はネココを殺すために送り込まれた殺し屋だったが、彼女と街中で遭遇した時は何もせずに去っていたらしい。コウはオウガと戦った時の様子を思い返し、確かに普通の人間らしからぬ様子だった。



(そういえばあいつ、俺と戦っている時もなんだか様子が変だったな……)



コウは戦闘の最中にオウガが自分に対して強い敵意を抱いている事は感じ取れたが、異様なまでに興奮状態だった事を思い出す。まるでコウを殺す事ができればどうでもいいという感じであり、戦闘中は無我夢中に襲い掛かってきた。


他にもコウが火球を放った時は必要以上に怯え、そのまま子供のように逃げ出してしまった。今現在のオウガはまともな精神状態ではなく、命を狙っていたネココの顔を忘れていてもおかしくはない。



(……もしもあいつがまた現れたら今度こそ殺されるかもしれないな)



オウガに痛めつけられた左腕と腹部は既に治ったが、またオウガと戦う事になればコウは次は確実に勝てる保証はない。今回は偶然にもオウガが火を見て取り乱して逃げ出したのでどうにかなったが、あのまま戦闘が続いていればコウは殺されていた可能性が高い。


前に戦った時よりもコウ自身も強くなったはずだが、オウガは新しい義足を手に入れて格段に強くなっていた。今まで通りの戦い方ではオウガに通じないと思ったコウは鞄の中に戻した闘拳を取り出す。

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