第105話 警備兵からの逃走

「こっちだ!!こっちの方で音がしたぞ!!」

「いったい何の騒ぎだ!?」

「急げ!!」



遠くの方から複数の足音と警備兵らしき声を耳にしたコウは顔色を変え、この状況を見られると色々とまずい。コウはあくまでも被害者だが、もしも兵士に見つかれば必ず事情聴取される。その場合、手持ちの荷物を確認も行われてスラミンの存在がバレてしまう。



「やばい、逃げないと……」



警備兵に見つかる前にコウは周囲を見渡し、路地裏を発見してそこへ逃げ込む。しかし、兵士達は路地裏に駆け込むコウの姿を確認して後を追う。



「おい、あそこに誰かいるぞ!!」

「逃がすな!!追えっ!!」

「待てっ!!」



兵士に見つかったコウは慌てて路地裏の奥へと駆け出し、どうにか兵士達を振り切ろうとした。足の速さと体力には自信があるのでコウは逃げ切れると思ったが、路地裏の一番奥は行き止まりだった。



「しまった!?」



行き止まりに辿り着いたコウは焦り、慌てて上を見上げるが建物の大きさから考えてコウが全力で跳躍しても屋根の上には届かない。もたもたしていると兵士に追いつかれる事は分かっているが、どうすればいいのか分からなかった。


コウが冷静ならば彼の人外じみた腕力ならば建物の突起物を掴んでロッククライミングの要領で屋根の上まで移動する事は可能だった。しかし、焦っているコウは冷静な判断ができず、警備兵との距離が縮まる。



「もう逃がさないぞ!!」

「大人しくしろ!!」

「くっ!?」



警備兵がコウの元に迫る中、何者かが建物の窓を開いてコウに声をかけた。



「兄ちゃん、こっちだ!!」

「えっ!?」



聞きなれた声を聞いてコウは驚いて振り返ると、行き止まりの建物の3階の部分の窓が開いていた。誰かが窓を開けたらしく、コウは考える余裕もなく窓に跳び込む。



「うらぁっ!!」

「うわっ!?」

「と、跳んだ!?あの高さを……」

「獣人族か!?」



地上から3階の窓に跳び込んだコウを見て警備兵は驚き、彼等にはコウの真似はできないので追いかける事を中断した。コウは建物の中に入り込むと急いで窓を閉める。これでしばらくは時間を稼げるが、問題なのは誰が招いたかである。



「兄ちゃん、ぼさっとするなよ!!こっちだ!!」

「その声はまさか……!?」



廊下の方から再び声を掛けられ、コウは振り返ると曲がり角で誰かが駆け込むのを確認する。慌ててコウは後を追いかけると、助けてくれた人物は建物の最上階まで移動する。


追いかけっこのようにコウともう一人の人物は最上階に辿り着くと、窓を開いて隣の建物の屋根の上に跳躍する。二人とも無事に建物の屋根の上に着地すると、もう安全だと判断したのかコウを助けてくれた人物がようやく振り返って顔を見せくれた。



「へへへっ……相変わらずだな、兄ちゃん」

「お前……ネココ!?」

「ぷるんっ!?」



コウを助けた人物はイチノで別れたはずのネココであり、彼女がサンノに居る事にコウは驚きを隠せない。彼女はある事情でイチノの盗賊に命を狙われ、別の街に逃げたという事はコウも聞いていたがまさかサンノに居るとは夢にも思わなかった。



「ネココ、お前無事だったのか!!」

「あったりまえだろ!!あたしがそう簡単に盗賊なんかに捕まると思ってたのか?」

「ははっ……元気そうで良かったよ」



ネココの顔を見てコウは彼女が生きていた事を知って安堵し、同時に勝手に自分の元から去った彼女に不満を抱く。



「お前な、人が寝てる間に勝手にいなくなるなよ。どれだけ心配したと思ってるだ」

「え?兄ちゃん、あたしの事を心配してくれたのか?」

「当たり前だろ、友達なんだから」

「そ、そっか……心配してくれてたんだ」



自分を心配していたというコウの言葉にネココは照れくさそうな表情を浮かべ、そんな彼女の態度にコウは不思議に思う。ネココとしては厄介事に巻き込んでしまった自分をコウは嫌ってしまったのではないかと思い、今まで悩んでいた事を話す。



「いや、あたしのせいで兄ちゃんには色々と迷惑を掛けたからてっきり嫌われてると思ったんだよ。でも、そっか……兄ちゃんはあたしの事を友達だと思ってたのか」

「何言ってんだお前……当たり前だろ」

「へへっ、兄ちゃんはやっぱり兄ちゃんだな」

「ぷるぷるっ♪」



コウの言葉にネココは嬉しそうに彼の元に近付き、鞄の中に隠れていたスラミンも顔を出す。だが、ネココは何かを思い出したように大声を上げる。



「そうだ!!兄ちゃん、さっきオウガの奴と戦っただろ!?」

「オウガ?」

「ほら、前にイチノであたし達を襲った盗賊だよ!!」

「ああ、さっきの奴か……」



盗賊の名前はコウは知らなかったので自分を襲った相手が「オウガ」という事を初めて知り、ネココからオウガも彼女と同じようにイチノからサンノに逃げてきた事が明かされた。

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