第70話 魔法に優れた種族

「うわっ!?」

『ギィアッ!?』



突如として森の中に発生した突風にコウやゴブリン達は驚愕し、咄嗟にコウは近くにある木にもたれかかる。一方でゴブリン達の方は地面に伏せるが、やがて強風が収まると森の奥から足音が鳴り響く。



(何だ……!?)



足音が聞こえる方角にコウは視線を向けると、彼は驚愕した。森の奥から現れたのは金髪の女性であり、緑色を基調とした服を着こみ、その背中には弓矢を掲げていた。顔の下半分は大きな葉っぱで覆い隠しており、先ほどコウが出会ったルルよりも胸が大きい。


いきなり現れた女性にコウは戸惑うが、ゴブリン達は女性が現れた途端に下衆な表情を浮かべ、彼等は舌なめずりを行う。それをみたコウはゴブリンの生態を思い出し、ゴブリンは人間の女性の肉を好むと記されていた。



『ギィイイイイッ!!』

「危ない!?逃げてっ!!」



女性を餌と判断したゴブリンの群れは先ほどまでのコウの恐怖が吹き飛び、本能のままに女性に向かっていく。それを見たコウは慌てて女性を助けようと黒斧に手を伸ばすが、女性は迫りくるゴブリンに対して背中の弓矢を構えた。



(まさか、これだけの数のゴブリンを弓で仕留めるつもりなのか!?)



逃げもせずに弓矢を構えた女性にコウは驚き、彼女は数十体のゴブリンを前に弓に矢を番えた。それを見たコウは直感で彼女に近付いてはならないと思い、慌てて木陰に身を隠す。



「ギィイッ!!」

「ギィアッ!!」

「ギャウッ!!」

「……はっ!!」



群れの先頭を走っていたゴブリンの内の三匹が女性に飛び掛かろうとした瞬間、女性弓に番えていたは矢を放つ。その直後、矢に緑色の光が灯り、先端部に風の渦巻が発生してゴブリンの群れを蹴散らす。



『ギィアアアッ!?』

「うわっ!?」



一発の矢を放った直後に突風が発生し、襲い掛かろうとした三匹のゴブリンは強風で吹き飛ばされて近くの大木に衝突してしまう。あまりの勢いにゴブリンの身体はあちこち折れ曲がり、血反吐を吐きながら倒れ込む。


矢を放った瞬間に竜巻の如く強風が吹き溢れ、ゴブリンの群れを次々と蹴散らす。ゴブリンの群れは女性の矢の射線上に存在したために他のゴブリンも巻き込まれ、たった一発の矢で数十匹のゴブリンは吹き飛ばされた。



(何だ今の矢は……まさか、精霊魔法か!?)



コウはかつて出会ったリンという名前の女性を思い出し、彼女が扱った風の精霊魔法を思い出す。彼女の場合は自分の身体に風の魔力を纏わせたが、女性の場合は矢に魔力を纏わせたように見える。彼女の外見もよくよく見るとエルフのリンやルルと同じように金髪で細長い耳をしている事に気付く。


風の魔力を矢に込めた一撃でゴブリンの群れを蹴散らした女性にコウは冷や汗を流し、一方で女性の方はコウに顔を向けた。そして何故か彼女はコウに向けて矢を構える。



「動かないで!!」

「えっ、ちょっ……」

「後ろよ!!」



女性が自分に矢を向けた事にコウは戸惑うが、彼女は警告した後に矢を放つ。その矢はコウの頭の横を通過し、彼の背後に存在した大木に突き刺さる。驚いたコウは振り返ると、そこには大木に張り付く蜘蛛が存在した。



「うわっ!?」

「危なかったわね、その蜘蛛は毒蜘蛛よ。もしも噛みつかれていたら大変な事になっていたわ」

「あ、ありがとうございます……」



女性の言葉を聞いてコウは彼女が助けてくれた事を知り、自分を狙っての攻撃ではなかった事に安堵した。しかし、女性は弓を構えたままコウに近付いて問いかける。



「貴方は何者かしら?冒険者?それとも……盗賊?」

「えっ!?いや、僕は……」

「ちょ、ちょっと待って~!!」

「お母さん、その人は大丈夫よ!!」



コウが答える前に女性の後ろから聞き覚えのある声が響き渡り、コウと女性が驚いて振り返るとそこにはこちらに駆けつけるリナとルルの姿があった。二人は女性の傍に駆け寄ると、リナは彼女の肩を掴み、ルルはコウを守るために前に出た。



「お母さん、コウ君をいじめちゃ駄目だよ!!コウ君は私を救ってくれた命の恩人なんだよ!!」

「えっ……お母さん?」

「ごめんなさい、コウ君。ほら、お母さんもちゃんと謝って」

「あ、あらあら……そう言う事だったの。ごめんなさいね、どうやら勘違いしていたようだわ」



お母さんと呼ばれた女性は顔を隠していた葉っぱを取り外すと、リナとルルと似た顔立ちの女性である事が判明する。しかし、二人の母親にしてはあまりにも若すぎる外見をしており、見た目はどう見ても20才前後にしか見えない。



「本当にごめんなさい、娘達を救ってくれた人だと知らなかったとはいえ、大変失礼な事をしてしまったわ」

「あ、いや……それは別に良いんですけど、えっと……貴方がリナちゃんとルルちゃんのお母さんなんですか?」

「はい。私がこの娘達の母親のラナです」

「えぇえええっ!?」



ラナと名乗る女性はどう見ても二人の子供がいるような年齢には見えず、ルルとリナの姉だと言っても納得できる程の若々しさだった。外見も似ているので本当に姉妹にしか見えず、コウの驚愕の声が森中に響いた――

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