第45話 スラミンの能力
「しっかりしろ!!すぐに治してやるからな!!」
「兄ちゃん、あたしの事はいいから逃げろ……兄ちゃんも狙われるぞ」
「狙われる?いったい誰に……うわっ!?」
「ぷるぷるっ!!」
ネココを抱えたコウは彼女の言葉に戸惑うが、この時にコウの鞄の中に入っていたスラミンが飛び出す。急に鞄の中から出てきたスラミンにコウは驚くが、この状況下で勝手に鞄を抜け出したスラミンを叱りつける。
「こら、スラミン!!早く鞄に戻れ!!」
「な、何だ……この青いの、兄ちゃんのペットか?」
「ぷるぷるっ!!」
コウに叱りつけられてもスラミンは言う事を聞かず、彼は何かを必死に伝えようとしていた。スラミンの行動を見てコウは疑問を抱き、不意に彼はスラミンを見てある事に気付く。
「お前、まさか……!?」
「ぷるるんっ!!」
ほんの僅かではあるがスラミンは輝きを放っており、それに気づいたコウはネココを地面の上に横たわらせて彼はスラミンを持ち上げた。他の人間に気付かれる前にコウは路地裏にてスラミンを抱きかかえると、彼女の傷ついた両足に近付ける。
スラミンの放つ輝きの正体は「星水」であり、どうやらスラミンは体内に星水を取り込んだ状態でコウの後を付いて来ていたらしい。村を出発してからかなりの時間が経過しているが、何故かスラミンに取り込まれた星水は完全に効果は切れておらず、コウは一か八かネココの両足の傷口にスラミンが取り込んだ星水を放つ。
「スラミン、やれ!!」
「ぷるっしゃああっ!!」
「わあっ!?つ、冷たいっ!?何すんだよ!?」
水を掛けられた途端にネココの意識は覚醒し、彼女は自分の下半身をスライムの吐き出す水で濡らしてきたコウに驚愕する。
「に、兄ちゃん!?いきなり水をぶっかけるなんて何を考えてんだよ!?」
「……ネココ、それよりも傷の具合は?」
「はあっ!?何を言って……あ、あれ!?怪我が治ってる!?」
「ぷるるるっ……」
スラミンが水を浴びせた瞬間にネココの両足の傷口が完治し、その一方で水を吐き出したスラミンは一回り程縮む。どうやら星水の効果が完全に切れる前にネココの治療に成功したらしく、コウは安堵した。
「良かった……間に合ったようだな」
「な、何がどうなってるんだ?さっきの水、もしかして回復薬だったのか?」
「まあ、その辺は後で説明するよ。それよりもお前、いったい何があったんだ?」
「それは……」
治療を終えるとコウはネココの肩を掴んで何が起きたのかを話させる。彼女は周囲を見渡し、近くに人がいない事を確認した後で自分の身に何が起きたのか説明した――
――時間は昨晩にまで遡り、コウ達と別れたネココは自分のねぐらに戻ってきた。彼女が暮らしている場所は廃屋であり、一年ほど前から住み着いているらしい。
ネココは親の顔を知らず、自分を育てていた人間も唐突に姿を消した。だからこそ彼女は他の人間の力を借りず、毎日食べ物や金を盗んで生活していたらしい。だからコウと遭遇した時も人助けと称して彼からお金を盗もうとした。
しかし、先日の一件でコウに金を返した後、彼女はねぐらに戻ると廃屋の管理者が現れた。実は彼女は廃屋の管理者に毎月金を渡す事で済む事を許可された。しかし、今月分の金を払ったにも関わらずに現れた管理者に彼女は問い詰められる。
『このくそガキが……恩を仇で返すつもりか!?』
『な、何だよ!?何の話だよ!!』
『しらばっくれるな!!お前のせいで奴が捕まったんだろうが!!お陰でこれからは俺達の仕事もしにくくなっちまっただろうが!!』
『奴!?それってまさか……』
廃屋の管理者は裏稼業の人間であり、どうやらコウ達が捕まえたイチノの警備兵の副隊長と深い関りを持っていたらしい。副隊長は自分の立場を利用して不正を行う人間達を故意に見逃し、その対価として裏で金を受け取っていた。
だが、副隊長が捕まった事で彼と繋がりを持っていた人間達も同時に悪事を暴かれてしまい、ネココが暮らしていた廃屋の管理者も危うく捕まりそうになったという。彼はネココが副隊長の捕縛に関係していると知り、自分が捕まる前に彼女を殺そうとした。
『お前のせいだ!!ガキだと思って温情をかけてやっていたが、とんでもない事をしやがって!!』
『し、知るかよ……だいたい、手を出してきたのはあっちだ!!』
『うるせえっ!!おい、やれ!!』
管理者の男はネココに逆恨みして彼女を殺そうとしたが、どうにかネココは逃れた。しかし、ねぐらを失った彼女はずっと追い掛け回される事になり、何度も殺されかけながらも追手を振り切って路地裏まで逃げ込んだらしい。
「そんな事があったのか……」
「へへっ……自業自得だよ、あたしもこれまで悪い事をたくさん仕出かしたからな。けど、兄ちゃんのお陰で助かったよ。本当にありがとな」
「ぷるぷるっ!!」
「分かってるって、青いのもありがとうな」
ネココは怪我を治してくれたコウとスラミンに感謝の言葉を告げ、彼女は覚悟を決めた様に立ち上がり、二人に振り返って告げた。
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