第37話 詠唱魔法と精霊魔法
「痛いの痛いの……飛んでけ!!」
「はっ!?」
「いや、それただの子供だましだろ!!魔法じゃねえじゃん!!」
「お静かに!!」
まるで子供をあやすように声をかけるハルナにコウとネココは呆気に取られたが、リンは二人の口元を塞ぐ。するとハルナの右手に刻まれた十字架の紋様が光り輝き、コウの拳に光が照らされる。
光を浴びた瞬間にコウの拳の痛みが引いて行き、ほんの数秒ほどで鈍い痛みが消えてなくなった。コウは驚いた様子を浮かべ、一方でハルナの方は額の汗を拭う。
「ふうっ……もう痛くない?」
「あ、ああ……痛みが消えたよ」
「えっ!?マジで今のが回復魔法だったのか!?」
「その通りです。これがハルナ様の御力です」
本当に怪我が治った事にコウとネココは驚き、何故かリンは自慢げに胸を張る。ハルナの回復魔法のお陰でコウは拳の痛みが引いたが、ここで彼は疑問を抱く。
「魔法って、呪文とかを唱えたりするんじゃないの?それとも今の言葉が呪文だったりしたの?」
「呪文?ううん、私達は魔法を使う時は呪文なんて口にしないよ」
「ハルナ様、コウさんがおっしゃっているのは人間が扱う魔法の事なのでしょう。我々の扱う魔法とは根本的に異なります」
「……どういう意味?」
コウは二人の言葉に疑問を抱き、彼の知っている限りでは魔法を扱う際は呪文を口にする必要があると聞いていたのだが、ハルナもリンも魔法を扱う時は呪文らしき言葉を口にしていない。
思い出せばルナも風の魔法を扱う際は呪文を口にしていなかった事を思い出し、もしかしたら魔法を扱う際は呪文など必要ないのかとコウは問い質すと、リンが詳しく説明を行う。
「コウさんやネココさんが想像している魔法というのは人間が扱う詠唱魔法の事でしょう。魔法を発動する際に特定の呪文を言葉に事で想像力を働かせ、魔法の精度を上げる魔法の事です」
「詠唱魔法?じゃあ、二人が使った魔法は詠唱魔法とは違うの?」
「私達の場合は詠唱は必要ないよ〜その気になればほら、こうやって魔法も使えるよ〜」
「うわ、眩しいっ!?」
ハルナは人差し指を示すと先端から光を放ち、これも彼女の扱う魔法の一種らしく、先ほど怪我を治した時と同じ光の輝きを放っていた。リンも同じように人差し指を伸ばすと、指先に小さな風の渦巻が発生した。
「エルフは人間と違って生まれた時から無詠唱で魔法を発動する事ができます。また、我々の場合は自分の魔力だけで魔法を発動しているわけではありません。精霊の力を借りる事で魔法の効果を上昇させているのです」
「え?精霊?」
「人の目では捉える事ができませんが、精霊と呼ばれる存在を私達は感じ取る事ができます。この部屋の中にも精霊は存在しますよ」
「えっ……この部屋の中にも?」
「何処にいるんだよ……ここか!?」
「無理だよ〜精霊は触れる事ができないから」
コウ達が存在する部屋の中にも精霊と呼ばれる存在がいるらしく、コウは部屋の中を見渡してみるがそれらしき物は何も見えない。ネココは適当に両手を伸ばして精霊を捕まえようとするが、人間や獣人族では精霊は見る事も触れる事もできないらしい。
エルフであるハルナとリンは精霊の存在を感じ取れるらしく、彼女達は魔法を扱う際に精霊の力を借りる事で魔法を強化しているという。そして精霊魔法を操れるのはごく限られた種族だけだと説明してくれた。
「我々が詠唱魔法を必要としないのは精霊の存在があるからです。精霊の力を借りれば呪文など口にせずとも幼子でも魔法を扱う事ができます」
「何だよ、それずるくないか?」
「ずるいと申されましても私達は生まれた時から精霊を感じ取る能力を備わっているのです。それに精霊といっても様々な種類が存在します。例えば私は風の精霊を操る事ができますが、ハルナ様の場合は光の精霊を操れます」
「風と光?という事は精霊は一種類じゃないのか……」
「その通りです。精霊は多種多様存在し、精霊魔法を扱える我々でさえも全ての精霊を把握しきれません」
「そんなにいるのか!?」
精霊の存在を感じ取れないコウとネココは話を聞いて驚く事しかできず、リンに寄れば精霊は環境によって種類や数が増減するらしく、建物の中ではリンが扱う風の精霊はあまり存在せず、逆に光の精霊の場合は明るい場所ならば何処にでも存在するという。
「コウ様が想像した魔法は詠唱魔法の事でしょう。私達には無縁の魔法なので見せる事はできません」
「あ、そうですか……」
「なんかよく分からないけど、その精霊魔法はあたしや兄ちゃんでも使えたりするのか?」
「う〜ん……無理だと思うよ?」
「精霊を感じ取る事ができるのはエルフの他には人魚族ぐらいです。人間や獣人の方が精霊魔法を扱かう事はできないでしょう……最も、勇者のような存在は別ですが」
「勇者……」
勇者と言う言葉にコウはルナの事を思い出し、彼女は確かに魔法を使う際に詠唱をしなかった。それはつまり、彼女は人間でありながら精霊魔法を扱える事を意味していた。
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