第30話 悪徳警備兵

「なるほど、状況はよく理解した……そこにいる三人のを手にかけたのはお前等だな」

「はあっ!?」

「ええっ!?」

「ああっ……やっぱりこうなるのか」



倒れている盗賊三人を一般人と称した警備兵の言葉にコウとハルナは驚愕するが、ネココは予想していたかのように頭を抑えた。



「状況を察するにそこのお前と後ろにこそこそと隠れているガキがそこのお嬢さんを拉致し、それを止めようとした善良な一般人に手をかけた……という事だな?」

「ちょ、ちょっと待ってよ!!全然違うよ!!この人達は私を助けて……」

「ご安心くださいお嬢さん、すぐに私が貴方を助けてあげましょう」

「話を聞けよ!!」

「兄ちゃん、逃げた方がいい!!こいつ、本当にやばいんだよ!!」



勝手に人を悪者扱いする警備兵にコウは激怒するが、そんな彼にネココは逃げるように促す。しかし、警備兵は即座に空き地の唯一の出入口に立ち塞がる。



「おっと、逃がさんぞ!!小娘、今までは散々逃げられたが今日こそ年貢の納め時だ!!」

「え?知り合い?」

「いや、それは……」

「そいつは窃盗の常習犯だ!!その窃盗犯を庇うお前も犯罪者という事だな!!」



ネココはどうやら警備兵の間では有名な人物だったらしく、彼女は罰が悪そうな表情を浮かべて顔を反らす。一方でコウは警備兵の言動に疑問を抱き、本当に自分達を悪者に仕立て上げて捕まえるつもりかと訝しむ。



「俺達を捕まえて犯人に仕立て上げようとしてるようだけど、ハルナは俺達が悪者じゃないと知ってるんだぞ!!なのに捕まえるつもりか!?」

「そ、そうだよ!!コウ君もネココちゃんも私を助けてくれたんだよ!!」

「ふん、そんな事は関係ない……今からそこの貴族の女には記憶を失ってもらう。そして俺は貴族の少女を誘拐した犯人を捕まえたという功績を上げる」

「何だって!?」



警備兵の言葉にコウは驚愕し、相手の男は懐から怪しい液体が入った硝子瓶を取り出す。それを見たネココは表情を歪め、コウに注意を行う。



「うげっ!?あいつ、やばいもん持ってるぞ!!前にあいつが捕まえた奴にあれを嗅がせたのを見た事がある!!多分、あれを嗅ぐと気絶して目を覚ました時は何にも覚えてないんだ!!」

「なっ……何で警備兵がそんな物を!?」

「ふふんっ、大人しくするなら手荒な真似はしないぞ。但し、そこの女共は記憶を失う前に俺が可愛がってやろう」

「ひっ!?」

「き、気色悪い事を言うな!!」



薬を懐に戻しながら警備兵はネココとハルナを見て舌なめずりを行い、慌てて二人はコウの背中に隠れた。一方でコウは先ほどの盗賊よりもよほど悪党な警備兵に苛立ちを抱く。


二人を背中に隠しながらコウはこの状況をどのように脱するのかを考え、まずは相手の様子を伺う。警備兵は鋼鉄製の鎧を身に着けており、流石のコウも鋼鉄の鎧を破壊するほど攻撃は繰り出せない。しかも相手は剣を所持しており、不用意に近づく事はできない。



(こうなったら指弾であいつの頭をぶち抜くしかないか……覚悟しろよ)



コウは腰に括り付けた小袋に手を伸ばし、銅貨を一枚取り出す。それを掌の中に握りしめながら好機を伺い、警備兵が近付いた瞬間を狙って攻撃を行う。



「さあ、観念しろ!!」

「……喰らえっ!!」



警備兵がコウ達に近付いた瞬間、コウは右手を前に差し出して親指で銅貨を弾き、警備兵の顔面に放つ。頭に衝突すれば確実に脳震盪を引き起こし、確実に気絶に追い込める。



「ぐあっ!?」

「よし、今だ!!走れ二人とも!!」

「やった!!おい、逃げるぞ姉ちゃん!!」

「わあっ!?」



コウの指弾が警備兵の顔面に的中し、警備兵は後ろに仰け反る。それを見たコウは二人に声をかけて逃げるように促し、すぐにネココはハルナの腕を掴んで駆け出そうとした。


しかし、頭に指弾を受けたはずの警備兵は後ろ向きに倒れそうになったが、すぐに顔を上げて憤怒の表情を浮かべる。そして先に逃げようとしたネココとハルナに手を伸ばす。



「逃がすか!!」

「うわぁっ!?」

「きゃあっ!?」

「なっ!?」



気絶したと思い込んでいた警備兵が動き出した事にコウは驚き、警備兵は逃げ出そうとした二人に掴みかかる。咄嗟にネココはハルナに抱きついて地面に倒れた事で警備兵の伸ばした腕から逃れる事ができたが、今度は倒れた二人に警備兵は近づく。



「このガキ共!!」

「わああっ!?」

「こ、来ないでっ!?」

「止めろっ!!」



二人は迫りくる警備兵を見てお互いに抱き合い、それを見たコウは警備兵に接近すると拳を振りかざす。そして岩を殴りつけて鍛え上げた拳を叩き込む。



「喰らえっ!!」

「がはぁっ!?」



鎧越しにコウの「剛拳」を受けた警備兵は身体がよろめき、子供が繰り出したとは思えない程の強烈な衝撃を受けた警備兵は身体をふらつかせる。しかし、攻撃を仕掛けたコウの方も異変を感じ取り、彼は殴りつけた拳を抑える。

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