第22話 もっと強くなるためには……

「そろそろだな……スラミン、しっかり掴まってろ!!」

「ぷるんっ!!」

「フゴォオオオッ!!」



ボアに追い掛け回されながらもコウはスラミンに声をかけ、常に全力疾走で走っているにも関わらずにコウの顔には余裕があった。一方で追跡を行うボアはいい加減に痺れを切らして速度を更に上昇させる。



「フゴォッ!!」

「……ここだっ!!」

「ぷるるんっ!!」



自分達を追いかけるボアが移動速度を上昇させたのを見計らい、コウは唐突に方向転換を行う。彼は横に大きくそれると加速したボアはそのままコウを通り過ぎてしまい、驚愕の表情を浮かべた。


コウ達を追跡するのに夢中でボアは前方に渓谷が存在する事に気付かず、勢いよく飛び出したボアは渓谷に真っ逆さまに落下した。



「プギャアアアッ!?」

「……よしっ!!作戦成功!!」

「ぷるるんっ♪」



目論み通りにボアを渓谷に誘い込み、見事に罠に嵌めて渓谷に落とした事にコウは嬉しさのあまりにスラミンを両手で抱えた。スラミンも作戦が成功した事を喜び、二人は渓谷を見下ろす。



「どれどれ、あいつどうなったかな?まあ、流石にこの高さから落ちれば……」

「ぷるんっ?」



コウはスラミンを抱えた状態で渓谷を見下ろそうとした時、何かが削れるような音が聞こえた。不思議に思った二人は岩壁に視線を向けると、そこには水浸しになりながら渓谷の傾斜を駆けのぼるボアの姿があった。



「フゴォオオオッ!!」

「嘘ぉっ!?」

「ぷるんっ!?」



ボアは渓谷に落ちても死なず、それどころか傾斜を駆けのぼってくる姿を見てコウとスラミンは驚愕の声を上げた。慌てて二人は渓谷から離れるが、ボアは傾斜を乗り越えて再び二人の前に立つ。



「フゴッ、フゴォッ……!!」

「あ、あはははっ……どうも、お久しぶりです」

「ぷるんっ……(←コウの背中に隠れる)」



怒りに満ちた表情を浮かべたボアはコウとスラミンを前にして鼻息を荒くするが、やがて我慢の限界を迎えたのか二人に突っ込もうとしてきた。



「フゴォオオオッ!!」

「くっ……仕方ないか、スラミン!!」

「ぷるっしゃああっ!!」

「フガァッ!?」



コウはボアが突っ込もうとした瞬間、スラミンを両手に抱えてボアの正面に構える。その直後、スラミンは体内の聖水を吐き出す。


星水を浴びたボアはその場で悲鳴を上げて倒れ込み、身体が麻痺したのか動かなくなった。ゴブリンと同様にボアは星水を浴びると動けなくなるらしく、コウは額の汗を拭う。



「プギャアアッ……!?」

「ふうっ……流石に舐め過ぎたか。こいつも魔物なんだよな」

「ぷるるっ(←水を出し過ぎて萎んだ)」



スラミンを抱えたコウは倒れたボアに視線を向け、残念ながら今のコウではボアは手に負えない。止めを誘うにも手持ちの武器ではボアの肉体には通じず、彼は引き下がる事にした――






――どうにかボアから逃げ延びたコウは山奥の洞窟に立ち寄り、萎んだスラミンの水分補給も兼ねて彼も星水を飲んで体力を回復させる。



「ぷはぁっ……生き返った」

「ぷるる~んっ」

「お前、本当にここが好きなんだな」



星水を飲んだ後もスラミンは泉の中に飛び込み、まるで浮き輪のように浮かびながら鼻歌のような鳴き声を上げる。星水は魔除けの効果があるにも関わらずにスライムには何故か効かないらしく、ある意味では魔物の中で一番の謎が多いのはスライムかもしれない。


スラミンが呑気に泉の中で泳ぐ(?)姿を眺めながらもコウは両拳を眺め、前よりも自分が強くなった事は実感していた。しかし、それでも勇者ルナに追いついたとは思えなかった。



(あいつ、風の魔法も使えたよな……となると、このまま身体を鍛えるだけじゃ駄目か)



コウはルナと別れる際に彼女が風の魔法で空を飛んでいた事を思い出し、自分もルナのように魔法を使えないのかと考える――






――魔法に関しての知識はコウは持ち合わせていなかったため、家に戻ったコウはアルと食事中に魔法の事を尋ねてみた。



「爺ちゃん、魔法はどうやって覚えるか知ってる?」

「ぶほっ!?げほっ、げほっ……お、お前な!!急に何を言い出すんだ!?」



アルはコウの質問に噴き出してしまい、とんでもない事を尋ねてきた彼に冷や汗を流す。しかし、コウもふざけて尋ねているわけではなく、アルが魔法を覚える方法を知っているのかを問う。



「爺ちゃん、魔法を覚える方法を知ってるの?」

「いや、それはだな……儂も詳しい事は知らないが、魔法を覚えるには魔術書が必要なんだぞ」

「魔術書?」



口元を拭きながらアルは普通の人間が魔法を覚えるにはどのような手順を取ればいいのかを説明してくれた。



「魔法を覚える方法はいくつかあるんだが、儂が知っている方法は魔術書と呼ばれる本が必要だ」

「本?」

「ああ、魔術師の中でも魔法の深淵に辿り着いた人間にしか作り出せないと言われている。その魔術書には本を書いた人間の物語が刻まれているらしい」

「物語……?」

「儂もあくまで他の人間に聞いただけで実際に見たわけじゃないんだがな……」



アルによれば彼が知る魔法を覚える方法とは魔術師しか制作できない魔術書を読まなければならず、しかもただ読むだけではなく、内容を理解した上でしか覚える事ができないという。

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