海原の祭典

@shinotsuki_nagi

第1話

 苦しい…助けて…溺れる…!!


 意識が遠のいていくその刹那僕は、青白磁の天使を見た。それはとてもこの世のものとは思えないほど美しかった。苦しいのも忘れて思わず見惚れてしまった。薄れていく意識の中で彼女の綺麗な声だけが脳にこだましていくのであった。

 

 

 「潮ー起きなさい!」

 うだるような夏の熱さの中、目が覚める。

随分と日が高い位置にある。どうやら大幅に寝過ごしたらしい。思いがけない眩しさに思わず顔をしかめる。家の外からは元気な子供たちの声が聞こえる。朝ご飯を食べるべく一階へと降りていくと何やら怒った顔の母親が立っている。

「夕べも遅かったみたいじゃない!」

「仕方ないだろバイトなんだから」

「バイトも良いけど、共同生活の輪を乱さないでくれる!?」

 

 もう何度目かになるやりとりだ。二十一にもなるというのに未だに子供扱いだ。

そろそろ一人暮らしでもと考えるが無駄なお金は掛けたくないしな…仕方ないいつもの事と割り切って気の無い謝罪を述べてこの件は決着した。

 

「ところで潮また海岸に例のあれ落ちてたらしいわよ!」

 

最近地元で流行ってる人魚騒動の話だ。

くだらない噂だろう。サイズのでかい鱗が落ちてたぐらいで何を大騒ぎしてるのだろうか


「実際会った人もいないし、実害もない。ほっといたら良いじゃん。」

「まあそうかしらね。実際いるなら一度お目にかかりたいわ!」

 

 馬鹿馬鹿しい…実在したら気持ち悪いだろとは思いつつもそうだねと空返事を返すのであった。

 


 

 


 

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