第4話 サバス様は容姿だけでなく、理想の相手だった

 最初は侯爵家という爵位に加え、世間体で大変人気のあるアイドル的存在のサバス様からのアプローチで緊張しつつ好奇心で会いたいという想いが強かった。

 だが、私の好きなことに対してこれだけ評価してくださるお相手に求婚されたことが、泣き出したくなるくらいに嬉しいのだ。


「うむ、良い顔色になった。早速だが、アップルパイは作れぬか?」

「今ここでですか!?」

「あぁ、いつかこうなる日を楽しみにして、私の部屋はあらゆる調理器具とキッチンをカスタマイズしたのだが」


 確かに、部屋の中なのに全く使われていないような新品のカマドや調理器具があるのは不思議に思っていた。

 まさか全て私のために用意してくれていたとは……。


「材料さえあればできるかと思いますが」

「なければすぐに連絡して持ってきてもらおう」

「では早速作りますね」


 婚約者のために料理をするなんて夢のようだった。

 比べて申し訳ないが、オズマは料理は使用人に任せれば良いの一点張だったからな……。


 鼻歌を歌いながら良い気分でアップルパイの下準備をして、カマドで焼く。

 既に新婚生活を満喫している気分になり、今まで生きてきて一番幸せな時間のような気がしていた。


「美味い!! このサクサク感のなかにある甘み。そして噛み終わる頃には口の中全体に広がる風味。さすがライアンだ」

「お褒めに預かり光栄です」

「うっ!!」


 サバス様がいきなり咳き込んだので、何事かと思いすぐに背中あたりを摩った。


「すまない、あまりにも美味しいので勢いよく食べたら咽せてしまったのだ」

「ビックリしましたよ。でも、失礼ながらサバス様も普通の人と変わらないところもあるのですね」

「私は人間だぞ。ライアンは私のことを特別扱いしないでいただきたい」

「それは無理ですね。心から愛せると思えた相手を特別扱いしないわけにはいきませんから」

「うむ、それは嬉しい答えだが……」


 すっかり打ち解けてしまい、時間が過ぎるのを忘れるくらい楽しかった。


「もうこんな時間か。帰りは私が馬車で送っていこう」

「至り尽せりありがとうございます」

「ライアンになにかあっては困るからな」


 まさかここまで優しく、気遣ってくださるお方だったとは……。

 幸せすぎて胸が苦しい。

 婚約に関してはお父様とお母様は無論承認だし、相手型のご両親も、本人に任せているらしい。

 あぁ、この幸せを誰かに分けてあげたい。


 そういえば、すっかり気にしなくなってしまったのだが、オズマとミーナの二人はうまくいったのだろうか。

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