反抗への道のり
赫彩(あかいろ)
西貝涼女という女
「初めまして。西貝です。」
目の前の女性はいたって普通で、どこにでもいるかのような印象を持った。
私は西貝涼女を取材するライターだ。今回は特別に彼女との面会が許された。
「初めまして。ご連絡させていただいたライターの須藤です。」
「本日は宜しくお願いいたします。」
挨拶をすると彼女も
「よろしくお願いします、須藤さん。」
と返してくれた。
「時間も限られてますので、早速なのですが例の件についてお聞かせください。」
というと彼女は
「はい。・・・わかりました。」
と少し暗い顔をした後に、ゆっくりと話をしてくれた。
事の始まりは彼女が高校生になったばかりのころの話だ。
彼女は親の仕事の都合上、高校からは都会の中高一貫校から地方の高校に進学しなければいけなかったのだそうだ。
無事に引っ越しや入学等も済み、いよいよ花の高校生活が幕をあげると思っていた。
しかし、幕が上がったのは地獄のほうだった。
都会からの編入生という話題性を持っていた彼女は、男子女子問わず注目を浴びるようになり、一躍話題の人物として校内でもてはやされた。
しかし、それが地元で有名な悪い女子の先輩の目にとまり、彼女はイジメの標的にされてしまうのであった。
彼女の名前「涼女」と書いて「すずめ」と読むが、それのせいもあってかイジメは
エスカレートしていき「スズメみてぇに泣いてみろやぁ!」と罵られながら日々の暴力に耐えていたという。
そしてイジメが行われて3ヵ月の間、先生にも親にも取り合ってもらえず一人で苦しんでいた。
結局は彼女は学校に行かないという選択肢をとるようにしたのだという。
そして学校に行かなくなってからは、深夜にコンビニのアルバイトを隠れるように行っていたのだそうだ。
ある日、いつものアルバイトの帰り道。
道端で本を売る浮浪者がいた。
浮浪者はどこか古臭く感じる本を1冊200円で販売していた。
「おう。どうだい。買ってかねぇかい?」
浮浪者の男はやけに明るく話しかけてきた。
本を見ると、どれも読んだことのないようなものだったため、興味をひかれた。
「じゃ、じゃあこれ・・・1冊。」
と彼女は「誰もわからない感情」という題名の本を購入した。
学校も行かないし、特にやることのない彼女は暇つぶしに本を買ったという。
そしてその本が、彼女の人生を大きく変えた。
本の内容は「ある学校でイジメにあう女子高生が、誰にも理解されない感情である殺意を抱いてしまい、いじめのリーダーを殺害してしまう」という物語だった。
彼女が暇つぶしと称して購入した本が、今の彼女を作り上げたのだ。
本を読んだ彼女は物語の主人公である女子高生に同情し、感情移入するほど読み込んでしまった。
夏が過ぎ、2学期が始まった9月。
彼女は学校に行くと決意した。
カッターをカバンに入れ、明確な殺意と共に。
学校につくと彼女は自身のクラスに目もくれず、イジメのリーダーの先輩のところへと向かった。
「すいません。その後のことは少しあやふやで。」
と彼女は言う。
「新聞やニュースで存じ上げてるので、無理に話して頂かなくても問題ないです。」
と須藤がフォローする。
「一つお聞きしたいのですが、イジメの主犯格である東山貴子を殺害した西貝さんの今思うことは何でしょうか?」
「東山さんを殺害した選択に後悔はありません。ですが人を殺めてしまった事の反省はしています。」
「なるほど。ありがとうございます。」
「時間です。」
看守の低い声が響いた。
「そうだ。須藤さん。私、今小説を書きたいと思っているんです。」
「どんな小説ですか?」
「私の小説です。題名は「犯行への道のり」っていうんです。」
と少し笑顔になった彼女は看守に連れられ部屋を出ていった。
外には彼女との面会を取り付けてくれた男性がいた。
「ありがとうございます。貴重な話を聞くことができました。」
「いえいえ。彼女はどうでしたか。元気そうでしたか。」
「はい。犯行については反省しているようでしたし、自分の小説を書きたいと前向きな一面もありました。」
「そうですか。それはよかった。」
「ところで彼女は本について他に言っていませんでしたか?」
「他に?あぁ、道端の浮浪者から本を買ったと。」
「その本の場所については何か聞きましたか?」
「いえ、何も。」
「そうですか。ではお疲れさまでした。またどこかで。」
そう言うと男は会釈して立ち去って行った。
須藤は立ち去る男の後姿を見ながら、ある疑問が頭に浮かんだ。
(あれ?本について新聞とかニュースで報道されたっけ?)
反抗への道のり 赫彩(あかいろ) @akairo3
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