先輩の背中を追いかけて

ニガムシ

後輩の話

俺は後輩に恵まれている。

そう思いながら日々を過ごしてきた。

俺はあまり頭が良い方ではないしどちらかと言うと体育会系の男だ。学校での生活のほとんどを部活の水泳に費やし、あまり後輩とも関わってこなかった。しかし、俺の知らない所で俺が練習をしやすいように準備をしてくれていたりしている。そんな後輩に心の中で感謝をしつつ俺は水泳に取り組んできた。そんな後輩の中でも一人だけ別格の女の子がいる。その子の名前は真谷加奈(まみや かな)身長は小柄だが泳ぐのがとても速い、よく食べ、よく笑い俺の中の憧れと言っても良いと思う。後輩に憧れる先輩というのはどうかと思うが俺は憧れている。

真谷は俺と同じ100メートル自由型に出ていて俺とは練習でよくタイム比べを挑んでくる。しかし、男子と女子ではタイムに差がつくのは当たり前だ。なのにも関わらず

真谷「先輩もう一本お願いします。」

そう言って勝負を挑んでくる。そして厄介なのが負けず嫌いで先生に止められるまで泳ぎ続けようとすること。あとは、肩が痛かったりして真谷に負けると

真谷「先輩手を抜きましたね!もう一本ですっ!」

こんな感じにスパルタ教師のようになる。本当はどこかが痛い時は控えるべきなのだが真谷に言われるとどうにも泳いでしまう。それは甘さなのか、それとも嬉しいからなのかよくわからない。

泳ぎ終わり真谷の家と俺の家は同じ道なので一緒に帰る。俺が友達と帰らなくていいのか?と疑問をこぼすと

真谷「先輩がいいんです」

と言い笑顔になる。そして、

真谷「先輩なら不審者が出ても守ってくれそうなんで」

と付け足すのだ。俺はそうかと返した。

真谷「先輩こそ他の人達と帰らないんですか?」

俺は帰り道が違うから一緒に帰らないし、真谷以外の後輩とはあまり話さないから、、、と返したら今までで一番の笑顔を見せてくれたのを覚えている。

帰り道のコンビニで軽く食べる物と飲み物を買う。真谷も同じ事をする。しかも、俺より食べる物が多い。晩飯かと聞くと

真谷「いいえ、違いますけど」

と首を傾げる。俺は小柄な真谷のどこにその量が入るのか疑問でしかない。

また帰路につき真谷とは会話をする時折見せる笑顔は水泳をしている時とは全く違う印象を与える。

そんな毎日を過ごしてきた。しかし、俺も3年生最後の試合も近くなっている。その為、俺も練習に専念しなければならない。真谷もそれを察したのか勝負を挑んでこなくなった。

そして、俺は今スタート台に立っている。観客席では真谷の応援が聞こえる。俺は決勝て泳いだ。

結果は2位コンマ2秒の差だった。俺は泣いた、1人で泣いた。努力が足りない自分への哀れみだったのかもしれない、応援してくれた人達の期待に応えられなかったからかも知れない。そして俺は水泳を終え受験勉強に移った。


受験には成功した。そして、大学に合格がわかった日に久しぶりに水泳部に顔を出した。

1番に真谷が合否を聞いて親よりも喜んでくれた。そして、練習に戻るよう言った。

その後に顧問の先生と話した。話していると真谷が俺が部活を終えてからずっと暗い顔をしていたと教えてくれた。俺はその日は最後まで練習を、、、真谷の練習が終わるまで待った。そして、久しぶりに一緒に帰った。

嬉しそうに笑う真谷と俺はゆっくりと一緒帰った。

真谷が家に入る前に連絡先を教えてくれと頼まれたので交換しニシシッと笑うスタンプを送ってきた。

家に入る前に

真谷「今日は久しぶりに楽しかったです。ありがとうございました。」

とお辞儀をし家に入って行った。

家に帰りスマホを見ると真谷が何かメッセージを送ってきていて俺はそれにオッケーと返した。

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