キツネの恩返し

凪なた 渚

夏休み開始っ!

暑い日差しが真っ黒なアスファルトに照り返る景色を、クーラーの効いた教室の窓から眺めているのは、天乃柊。高校一年生、16歳だ。

そんなふうにボーっとしていると、学校のチャイムが鳴った。


一礼。

教頭先生「これから終業式を始めます。」

一礼。


夏休み前の最後の試練、そう、校長先生のなっがーいお話だ。


教頭先生「…‥終わります。よい夏休みを」

やっと終わった。

体育館から教室に戻ると、クラスメイトたちからいろんな話声が聞こえてくる。

「夏休みにどこか行くの?」

「海とかかなー」

「海か!なんならみんなで行っちゃう?!」

とかいう何気ない会話が耳を右から左へと横切っていく。盗み聞きするつもりではなかったが聞こえてしまったのだから仕方ない。不可抗力だ。

何はともあれ、僕の場合、まだこれといった予定も決まっていない。

友達から誘われたら遊びに行くが、自分から誘うのはあまりない。

なんだか、あまり誘わないから逆に言い出しづらい。

そんなことを思いながら、さっさと帰りの準備をする。

「国語の宿題って何持ってく?」

顔上げると友達のアキラが僕の頭上を見下ろしていた。

「古典のワークと現代文のワークだった気がする」

「あー!おけ、ありがとう!」

「いえいえ」

ここで会話が終わるのも嫌だったので、何気なく質問した。

「そういえばアキラは夏休みにどこか行くの?」

「フェスに行くよ」

「フェス?」

「そう、フェス」

驚いた。アキラは中学からの友達で今まで一緒に過ごして来て、フェスなんて言葉をアキラの口から聞いた覚えがない。

「まあ、いとこについて行くだけなんだけどねー笑」

それを聞いて安心した。

そんな会話も終わり、いよいよ自分も夏休みが始まるという高揚感に浸っていた。


そして、自宅へと足を前に動かした。



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