第10話
いつもよりだいぶ早い時間での登校。
昨日、白瀬についたしょうもない嘘のためにこんなことになってしまっているのだが⋯⋯。
い、いや、しょうもなくなんてない⋯⋯。
白瀬には好きな人がいるんだし俺が一緒にいたら邪魔になるのは間違いないし⋯⋯。
「おー、善一。今日は来るの早いな」
「⋯⋯? ああ、優斗か」
下駄箱で上履きに履き替えているところ、現れたのは優斗だった。
練習着に身を包み、タオルで汗を拭いている優斗。
朝練帰りなのだろう。普通に汗臭い。
「⋯⋯? どうした? なんか元気なくね?」
「お前が汗臭いんだよ」
「元気なくすほど臭いのかよ⋯⋯って、あれ? 今日は1人なのか? 白瀬さんは?」
「あー⋯⋯白瀬はだな⋯⋯」
こいつ、絶妙なところ突いてきやがったな。
別に俺が1人で登校してくる日ぐらいあるだろ。
どこに疑問を感じてんだよ。
「———おや、善一くんじゃないですか。おはようございます」
聞き慣れた声が後ろから聞こえ、サーッと頭が真っ白になるのを感じた。
振り返らずとも誰かわかる。白瀬だ。
噂をすればなんとやらってやつが起きてしまった。
ホームルームまでまだだいぶ時間があるのになんでこの時間に登校してきてんだよ⋯⋯。
優等生かよ⋯⋯。
俺がわざわざ時間ズラして早く来た意味って⋯⋯。
「お、おう。おはよう、白瀬」
「同じ時間に到着するなら一緒に来れば良かったですね」
「お、おう。そうだな⋯⋯」
「あれ、やっぱり2人とも今日は別々に来たのか?」
あ、今その質問は不味い。
「はい、善一くんが今日日直らしいので別々に登校してきたんですよ。別に私は朝苦手ではないのに」
「⋯⋯? 善一は今日日直じゃ——」
「あーー!!! わるい白瀬、俺と優斗ちょっと用事あるからまた今度な!!!」
「えっ、あの⋯⋯善一くん?」
明らかに不審な目を送る白瀬。
だいぶ強引な誤魔化しだが話がややこしくなるよりはマシなのでこのままいかせてもらおう。
「ほ、ほら行くぞ優斗!」
「へっ? どこに? てか用事って?」
「いいから! また今度な白瀬!」
「あっ、はい」
呆然と立ち尽くす白瀬を後に、俺は優斗の手を強引に引いて逃げた。
胸が締め付けられるほど痛い⋯⋯が、これも白瀬のためである。
我慢しよ⋯⋯。
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