第25話 ねいね、行きます!!

「さぁ。この俺を楽しませろよ!」


大太刀を構えたカイエンが

追放天使が隠れていると思われる

障害物の方に突っ込んでいく。


「出てこい!」


大太刀からグイイイイン!と

音が鳴りだした。


「ねいねさん真後ろに下がって!」


障害物はカイエンの大太刀で

あっさりと切られてしまう。


「怖っ!何よこれ反則だよー!」


「そのまま自動車タワーの方に逃げて!」

「まったくどれだけチートだよアレは!」


思わず戸坂も大声を出してしまう。


ねいねは指示通りローラーダッシュを使って

自働車が積み重なっているタワー群に

移動しようとするが、スタビライザーが無い事で

傍から見てもわかるくらい姿勢が不安定だ。


「もう少し後ろに重心を……ハッ!」

「ねーねちゃんさっきの勢いは

 どこに行ったのかな!?w」


「こいつっ……!」



どうにか自動車タワー群に入れはしたが

この距離差では隠れる余裕はない。


「このままでは追いつかれます!」

「まだワイヤーを使えば……!」


ねいねは大型車にワイヤーを打ち込み

ウインチを併用して加速やカーブを行う。

背中の大型スタビライザーが外れた事で

更に軽量化され俊敏さ自体は増しているようだ。


「ねいねは本当に凄いな……」

「頑張ってねいねちゃん!」


カイエンの視界が不良な事もあり、

障害物エリアの中では追放天使が

優勢のようだが逃げる事しか出来ていない。


「少しずつこの子の事わかってきたけど

 このまま逃げるだけでは……待って。

 何よこの臭いは!?」


少しずつ追放天使から変な焦げ臭いが

発生しているのをねいねは認識した。


「内海さん!」


「これは、モーターの焼け付き……!」


元々ローラーダッシュの長時間の連続使用は

バッテリーにもモーターにも過度の負担がかかり

故障や稼働時間の低下に繋がってしまう。


更にバトルにより各部のダメージも蓄積されており

このままではバトル終了まで持たない

可能性すら出てきた。



「どうしたら良いの!?」

「とりあえずモーターを冷やしてください」

「えっ?それってつまり……」

「しばらくローラーダッシュ使わないで」


「ちょっと待ってよー!!」



ローラーを止めてワイヤーとウインチで

対応するもそれではカイエンから

逃げる事は出来ない。


「ここまでだな!」


高槻は一気に距離を詰めた後、

大太刀でねいねを吹っ飛ばした。


「キャアッ!」


「ねいねちゃん!ねいねちゃん!!

 もういい。もうギブアッ……」


その時、みぅのスマホから着信音が鳴った。


「えっ……? 店長?」


店長は仕事日以外は電話をかけてこない。

何か緊急な事があったんだと思い

みぅは急いで電話を取る。


「はい。どうしました店長?

 ……えっ!?」


……

………


「ハァ……!ハァ……!」


急いでねいねは呼吸を整える。


何とかカイエンをまく事は出来たが

これで何度目の逃亡劇だろうか。

残り時間は3分弱。いよいよ後が無い。



― そろそろ覚悟をする時かな ―



流石のねいねも疲労困憊から

弱気な言葉が漏れてくる。


「戸坂会長。もう私は……」


と言いかけた時、バトル中は混ざってこない

みぅの声が無線から聞こえてきた。


「ねいねちゃん!」


「みぅ!?どうしたの!」


「今から配信の音を繋ぐね!」


「……えっ?」


少しの間、ガサゴソとマイクが擦れる音がした後



『ねいねさん、頑張れ!』



という聞きなれた男性の声が聞こえてきた。



「ほづみ君!?」



『サンプルの皆さんも応援して下さい!

 ねいねさんは奇跡を起こせる人なんです!』


間違いない。ほづみ君は最後の配信中にも関わらず

ロボバト決勝戦の実況配信をしている。


「な、何で……!」


あまりもの驚きでねいねは

今の状況を忘れそうになったが

その瞬間、配信の音が消えて

戸坂会長が強めの声で集中を促す。


「ねいね!今は試合中だ!

 もうすぐ奴が来るぞ!」


ねいねはハッとした顔で辺りを見渡した。


そうだ。まだ戦いは終わっていない。

終わっていないんだ。



― そっか。諦めてなんかいられない

 私はまだ戦えるんだから……! ―



ねいねは少しだけ目を閉じて覚悟を決める。



「……戸坂さん」


「なんだ?」


「1分。1分で私は全てを決めます。

 体力も集中力も出し尽くすし

 モーターもきっと持たないでしょう。

 もしそれでダメなら潔く諦めてくださいね」


会長はそれを聞いて

ニヤリと口角を上げて笑った。


「クククッ。最高じゃないか!!」

「ねいねさん!」

「ねいねちゃん!」


同好会チーム全員が声を出して

ねいねを鼓舞する。



「ありがとうございます!

 ねいね、行きます!!」



ねいねはその言葉を最後に無線を切り、

追放天使はローラーダッシュを全開にして

カイエンに突進していった。



「なんだと!?」



追放天使が隠れているであろう場所に

突撃しようとしていた高槻は

完全に不意を突かれて動揺していた。


逃げてばかりいた相手が一転して突っ込んで来た事、

そして今までより更に速い猛スピードな事に。



「速い!速過ぎる!」



同好会チームも同様に驚いていた。


「いくら軽量化しているとはいえ、

 スタビライザーが無いのにどうやって……!?」


内海でも今の状況を理解しきれない。


急速に接近する追放天使に対して

どうにか大太刀を振るうカイエン。


しかし追放天使は滑り込みでそれをかわし

通り過ぎる際にペイント弾を連射。

カイエンの視界を確実に奪っていく。


「ぐわぁっ!」


そのまま追放天使は障害物の壁を飛び越えて

カイエンの視界から消えていった。


『!?』


普通では飛び越えられない高さを

追放天使が飛び越えた事に

会場にいた全員が驚愕している。


『あ、あれはウォールランだ!?』

『ロボットがパルクールしてるぞオイ!』

『マジかよ!』



追放天使はウォールランやヴォルト、

クライムアップ、PKロール等の

パルクールの技を使いつつ、更に追放天使の

ローラーダッシュやワイヤー&ウインチも併用して

ロボットとは思えない三次元な動きを見せる。



「一体どうなっているんだよおおお!!!」


ただでさえ視界の大部分を奪われた上に

予想出来ない相手の動きでパニックに陥る高槻。



「こ、このアマがぁぁ!

 女の癖にロボットに乗って粋がるなよ!!」


カイエンは大太刀を振り回しながら

何も考えずただ追放天使を追いかけ続ける。



「こ、これは……!」

「ぬふふ。完全に風向き変わったな!」


満面の笑みを見せる戸坂と内海の前を

追放天使は横切り、そのまま反転して

カイエンに突っ込んでいく。


「来た!これで終わらせてやるぅ!」


大太刀を構え、とどめの一撃を

繰り出そうとするカイエン。


しかし、追放天使は直前で

パルクール、ダッシュ、ワイヤーを駆使した

大ジャンプでカイエンを飛び越える。


「ふっ、ふざけるなあああああぁ!」


今度こそいける!と確信していた分

カイエンは大きくバランスを崩してしまう。


追放天使はそのまま突っ走り

走りながら何かを取る態勢になった。


「あっ!あれは!」


内海はねいねの狙いを理解した。


追放天使は足元にある分離したスタビライザーを

両手で持つと全力で振り回して

カイエンの足首に向けて叩きつけた!


「うわああああああああああああぁ!」


ただでさえバランスが崩れていた上に

カイエンの弱点である足首を狙われて

遂に転倒してしまう。


「ちょ、ちょっと待っ……ぐわっ!」


即座に追放天使はカイエンにワイヤーを絡めていく。


「決まりましたねwww」

「ねいねちゃーん!」

「ウワーッハハハハハ!!」



戸坂会長が過去最高の高笑いを見せる中、

バトル終了のサイレンが会場に鳴り響く。


いつもなら歓声を上げる筈の観客も

衝撃的な光景に呆然としたり、

驚愕したりと様々な反応を見せている。


「……はぁっ!」


そして、今まで一言も言葉を発さず

厳しい表情を見せていたねいねは

一度深呼吸をした後、笑顔を見せて

歓喜の声を上げる。


最初に発した言葉は決まっている。



「やったよ!私、勝ったよ!

 私の戦い、見てくれたかな!?

 ほづみ君!ほづみ君!ほづみくーんっ!」



いつもより静かな試合後の会場に

ねいねの声が響き渡った。



その横で高槻はカイエンの中で叫んでいた。


「あ、ありえない!こんなバカな事あるもんか!」


勝てた試合を棒に振った上に醜態を晒した

高槻を見ながら無言で首を振るホソダチーム。



「何と優雅な……まさに天使だわ!

 流石、私のライバルですわーっ!」


予想を遥かに超えた追放天使の戦いぶりに

心を奪われる伊集院まりぃ。



そして、初出場で初優勝という快挙を成し遂げて

それぞれ喜びの声を上げる同好会メンバー。


「我が世の春が来たぁ!」

「まったくロボバトは最高ですね!w」

「まさか本当に優勝するなんて……!」

「ねいねちゃんやったね!おめでとう!」


観客も落ち着いてきたか声を出し始めて

その声はやがて大歓声となった。


「みんな!ありがとー!」

その声に改めて答えるねいね。



こうして、決勝戦は死闘の末、

水道橋大学ロボットアニメ同好会の

大勝利で幕を閉じた。



ロボバト大会が始まって以来、

見た事のない激闘であった。



----------------------

【最終回予告】

【本日夜19~20時公開!】


  エピローグ

~その後のねいね~


お楽しみに!


―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。

次回のエピローグで完結となります。


また、完結記念としてYouTubeにて

ねいねが歌うエンディングテーマ

「ディスプレイの外にいるあなたへ」

を公開いたします。


合わせてこちらも見ていただけたら嬉しいです。


それでは最後までよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る