第24話 アッハッハッハ!ようやく捕まえたぞ!

ざわ…ざわ…!



試合が始まって3分。

観客は今までとは違う試合展開に

戸惑い、野次が飛び、そして興奮していた。



「あっはっはっ!」

とにかく高笑いしている戸坂会長と


「いいですねw そのまま直進すると見せかけて、

 ワイヤーでスウィングバイいきましょうw」


同じくニヤニヤしながら追放天使に

指示をだす内海のコンビ技が会場を支配している。



一方、カイエンの高槻はイライラの極致にいた。


「くそっ!またこれだ。いい加減にしろよ!」


『高槻落ち着け!相手の動きに乗せられるな!』


「リーダーは黙っててください!

 ここまでコケにさせられてっ……!」


興奮していてチームの指示も耳に入らない。


大太刀を横一文字に振るが追放天使に

わずかに届かず空を切ってしまう。


高槻は戸坂が仕掛けた

”焦らし作戦”に捕らわれている。


当たりそうで当たらない微妙な距離を

保ちながらも時には接近一撃離脱を繰り返し

相手にペースを掴ませない。


冷静になるべく距離を取ろうとしても

追放天使はカイエンに一気に接近して

”煽りポーズ”をかまして高槻を挑発する。


それに激昂して突っ込もうとする頃には

追放天使は既に距離を取っているのだ。


このように、高槻は完全に

戸坂の術中にハマっており、

仮にこのまま時間切れとなってしまったら

追放天使の優勢勝ちになる可能性が高い。



しかし、同好会チームも同様に苦しんでいた。


その理由は決定打を出すタイミングが

未だ見つからない事。そして何より

ねいねの疲労度が高い事だ。



「ハァッ……! ハァッ……!」



傍から見てもわかるくらい

疲労の色が濃くなっている。


これは体力ではなく精神力の問題だ。


いくら戸坂が場を支配していると言っても

指示を聞きながらカイエンの動きに合わせて

的確に動くのは相当の集中力を必要とする。


それが慣れない戦法だと猶更だ。



「そろそ決定的な隙を見せて欲しい所だが」

「こちらが力尽きるのが先かもしれません」



追放天使はどうにかしてワイヤーを

カイエンに絡ませて動きを封じなければいけないが

懐に飛び込めるチャンスはまだ来ていない。



「ねいねちゃん……」


みぅはここまで追い込まれているねいねを

見るのは初めてで胸の奥が苦しくなる。


かわすタイミングがギリギリ過ぎて

思わず目をそむけたくなる瞬間もあった。


しかし、みぅはしっかりねいねを見続けて

力の限り声を出して応援をする。


ねいねに宣言した言葉を守る為に。



― ううん! ねいねちゃんの試合だけは

  死んでも見るから。 後ろで見守るから! ―



「天使さん……」


一方、伊集院まりぃは戦う追放天使を見て

圧倒されていた。恐怖したと言っても良い。


実際にカイエンと戦ったまりぃには

今ねいねがやっている事がどれほど

凄い事か実感出来るのだ。


カイエンから常に受け続ける”圧”

少しでもミスったら即死の状況で

チームの指示に即座に反応する集中力。


これは尋常な事ではない。


たとえ司令塔のあの男がいたとしても

私ならこの作戦は採用しない。採用出来ない。


あれはねいねと追放天使だからこそ

実行出来る作戦なのだ。


今の状況は見た目だけなら追放天使は

カイエンに対し五分以上に戦っている。



「しかし、このままでは……」



伊集院まりぃは厳しい顔で

試合の行く末を案じていた。


……

………


「くっ……!」


ぎりぎりでカイエンの攻撃を交わすねいね。


まりぃの懸念通り急速に

バトルの雲行きが怪しくなってきた。



「これは間に合いませんでしたね」

「ダメだったかぁ」



戸坂と内海も今の状況を理解している


問題はねいねの動きではなく、

”ねいねが疲れている”事が

ホソダチームに気づかれた事だ。


「クックックッ。ねーねちゃんは

 いつまで俺の攻撃をかわせるかなwww」


こうなってしまったら戸坂の作戦も

効果が半減してしまう。


「ねいねさん、一旦距離を取りましょう。

 今のままでは状況は悪化するばかりです!」


「了解!」


カイエンと間合いをとっていた追放天使が

後退しようと動きを止めた時、戸坂が叫んだ。


「いかん!」


「へ?…… っ!?」


ねいねに向かって大きな板が凄い勢いで飛んできた。

カイエンが左腕の盾を投げてきたのだ。


不意を突かれたねいねはかわす事が出来ずに

腕をクロスして防御するのが精一杯だった。


「キャァッ!」


防御自体は成功したが体格の差、

重量の差がここで露骨に出てしまい、

受け止める事が出来ない。


追放天使は大きく態勢を崩してしまう。



「さぁ、これで天使も終わりだ!」



高槻は武器である大太刀すらも手放して

一気に追放天使に突っ込んでいく。


「捕まえるつもりか!」

「ねいねさん逃げてください!」

「ねいねちゃん!」


大ピンチを迎えて叫ぶ同好会チーム。


「くっ……!」


ねいねは何とかかわそうと身体を捻るが

間に合わず、背中のスタビライザーを

掴まれてしまう。



「しまったっ!」


「ねいねさん!」


「アッハッハッハ!ようやく捕まえたぞ!」



カイエンはそのまま追放天使を持ち上げて

勝利を確信した高槻は歓喜の声を上げる。


「よくもこの俺をコケにしてくれたな!

 10倍にしてその身体に……何っ!?」


ねいねは両手の親指、小指、人差し指を

くっ付けてそのままキーを回すように

2回手首を動かすと、ガコッ!と

背中から大きな音がした。


ねいねが直後に『パージ!』と叫ぶと、

その音声に反応してスタビライザーが

本体から分離して脱出に成功する。


「こいつはこんな事も来るのか!?

 本当に忌々しい……うおっ!」


「当たって!」


カイエンから逃れられた追放天使は

至近距離でペイント弾を連射すると

センサー及びコックピットに数発当たり

カイエンの視界が半分奪われる。


「しまった!」


「やった! このまま一気に!」


ワイヤーを確実に絡ませる為に

後ろに回り込もうとローラダッシュを

仕掛けるが、ねいねは異変を感じた。



「きゃっ!動きづらい何よこれ!?」



背中にある大形の可動式スタビライザーは

主に高速移動時のバランサーとして使用される。


そのバランサーを失い、

更に重量バランスも狂った状況で

まともに走れる訳がないのだ。


「ちょっと待ってよ……!」


対応に戸惑ってしまい

攻撃のタイミングを失ってしまう。


「間に合いません。一旦後退してください!」


ねいねは内海の指示通り

カイエンから離れて障害物に隠れる。


「ハァ……ハァ……」



一気に形勢が逆転してしまった。


「……」

「ねいねちゃん……」



同好会チームは苦しい状況に

追い込まれて声も出ない。


追放天使の強みであるローラーダッシュが

実質的に封じられてしまった。


「もう終わりだ。 ロクに走れなくなった

 お前に勝ち目はない。ハッハッハッ!」


勝利を確信した高槻と対照的に

悔しそうに呟くねいね。



「天使の翼がもがれてしまった……」


「……」


バトル時間は残り4分強。

絶望的な空気が同好会チームを包んだ。



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【次回予告】

【1月30日完結!】

【2話同日公開】


天使の翼をもがれてしまった追放天使。

窮地に追いやられたねいねの元に

みぅからの通信が入る。


その内容とは……!


最終回 推しVロボ第25話

ねいね、行きます!!


そして、エピローグ

~ その後のねいね ~


を ”同日公開” いたします。


※ 25話→0時頃予定

  エピローグ→19時頃予定


お楽しみに!

―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


また、完結記念としてYouTubeにて

ねいねが歌うエンディングテーマ


「ディスプレイの外にいるあなたへ」


も合わせて公開いたします。


気が向いたら★や感想、フォローなどを

頂けると嬉しいです。


それでは最後までよろしくお願いします。

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