第13話 私が出来る最大のプレゼント

女神パラスアテナと対峙する

全高5.2mの直立人型ロボ。


世界的自動車メーカー「ホソダ」が

本気を出して開発してきた最新ロボが

【カイエン】だ。


追放天使と同じく人型ロボだが、操作方法は大きく異なり

他のロボと同様にペダルやレバー等を使い操縦する。

また、複雑な動きに対応するべく操縦補佐として

高性能なCPUユニットを搭載している。


2本の脚にはローラー機構も持ち機動力も高く、

CPUユニットによる強力な姿勢制御により

追放天使程ではないが柔軟性は高い。


そして右手には対ロボ用の大太刀を持ち、

左腕には小型ながら盾も装着している。


このように見た目といい、スペックといい

まさにアニメの世界から来たロボットだ。


「まったく、大手メーカーの癖に趣味に走り過ぎだぞ」


戸坂会長は呆れと嫉妬と称賛の混ざった言葉を漏らす。



一方、パラスアテナは全高4.3m。

4脚の車輪付きでダッシュやジャンプも一応可能という

高い走行性能を持ち、攻撃力自体は高くないものの、

2本の長い腕と多数の内臓武器で着実にポイントを

稼いでいくスタイルだ。


双方とも過去のロボとは一線を画する性能を持ち、

重機タイプに対抗しようという気概も感じる。


第一試合の”イロモノ”とは違う本格派の戦いに

どちらが勝つか各所で予想が繰り広げられていた。



「まりぃさん。勝ってください」



そう呟く知奈の声は開幕のサイレンによりかき消され

ついに第二試合が始まった。


「さて、どっちが先に動くかな?」

「やだなぁ戸坂さん。そんなの決まってますよw」



「さぁ。行くわよ!」


開幕と同時に動き出す女神パラスアテナ。

しかし真っすぐ突っ込む事はせず

まるで挑発するかのようにカイエンの周りを周回する。


「何度もシミュレートさせて貰いましたわ!」


まるで滑るかのようにスムーズに且つ

リズミカルに動き続けるパラスアテナと

その場から一歩も動かず相手の動きを

しっかり捉えるカイエン。


「あら。思ったより慎重ですね!」


まりぃが横のスイッチを押すと

パラスアテナの正面から煙幕が吹き上がり、

機体の周辺が見えにくくなる。


その瞬間を狙って今までのリズムを一変させて

一気に接近戦に持ち込もうとした。


「よし、うまく死角に飛び込め……えっ!?」


顔は明後日の方角を向いてても、まるで

腕が勝手に動いたかのように大太刀が

パラスアテナ向かって突き出された!


「んっ!」


まりぃは巧みにパラスアテナを操り

何とか大太刀の回避に成功する。



「あれ。センサーに連動した自動防御モードですね」

「一体どれだけのお金をかけて作ったんだアレは!」


「しかし、寸前で回避したまりぃさんも流石です。

 並のパイロットなら今のはかわせません」


戸坂達は今のやり取りを感心しながら見ているが

知奈はこの後が危険だと感じていた。


「まりぃさん……あぶないっ!」


一旦態勢を整えようと後退するパラスアテナに対し

カイエンは突進をかけて距離を詰めようとする。


もしこのまま接近を許せばパラスアテナは

一気に不利な状況に陥るだろう。


しかし、迫るカイエンを見て

まりぃはニヤリと笑った。



「ですよね。そう来ますよね?

 しかし私を誰だとお思いですか!」



パラスアテナの胸から今度は小型の炸裂弾が

無数に散布され、カイエンはそれの直撃を受けてしまう。


ロボバトでは攻撃力の高い火器は禁止となっているが

この程度の炸裂弾ならダメージを受ける事は無く、

それによる反則にも判定にも響かない。



「しかし、相手の動きを止めて隙を作る事は出来る!」



不意に直撃を受けて狼狽したカイエンに対して

今度はパラスアテナが一気に突進した。



「これでようやく接近戦に持ち込めましたわ!」



渾身の力を込めて右の拳をカイエンに叩きつける!



……ガキィンッ!!



「!?」


カイエンの左腕に装着されている盾が

それを受けきってしまった。


「まったく。化け物がっ……!」


残った左腕で追撃しようとしたが、

それよりも先にカイエンの”足”が動いた。



ゴンッ!!



「ぐぅっ!!」


パラスアテナは流石に耐える事が出来ず

そのまま吹っ飛ばされた。


「まったくロボットが”蹴り”までするかね!」

「おそらく初でしょうねw」


今度はそのままカイエンが反撃に入ったが

まりぃはまだ態勢が出来ていない!



「まりぃさん。右を見て!!」

「!?」



知奈の声が聞こえたかのように右を向くと。

そこには既に至近距離にいるカイエンがいた。


必殺の大太刀を振りかざすカイエン。

いくら抜群の運動性を誇るパラスアテナでも

この態勢からこれはかわせない。


やられた!と思わず目を瞑るまりぃ。


……


コンッ、コンッ。


「!?」


目の前のカイエンは動く事無く

大太刀でコックピット辺りを”ノック”しただけだった。


「……まさか」


まりぃは理解してしまった。

奴に”舐められた”という事実を。



「よりにもよって伊集院家を、

 この私をコケにするなんて!!」



パラスアテナは残りの炸裂弾を放出しながら

今度は後退せずカイエンに向かって突っ込んでいく。



「まりぃさん!無茶です!」

「いや、彼女は”泥仕合”に持ち込むつもりです!」



組みついてインファイトを仕掛けたら

あの大太刀は使えない!という目論見だろう。


実際、2機がクリンチ状態に入ったら

お互い有効打を出す事が出来ず

苦労しているように見える。


しかし、この膠着状態も長くは続かない。

一瞬の隙をついてカイエンの蹴りが入ってしまう。


「ぐっ!」


2機の距離が離れた瞬間、パラスアテナに対して

カイエンの大太刀が振り下ろされる。


グイイイイン!と音が聞こえたかと思った瞬間

火花と共にパラスアテナの左腕がボトッと”落ちた”


「斬った!?」

「マジですかw」


それを見て勝負は決まったと会場の雰囲気が変わる。

しかし、伊集院まりぃは欠片も勝負を諦めていなかった。



「私は天使さんと決勝戦で戦うんだから!」



パラスアテナは右手で落ちた自分の左腕を持ち、

こん棒のように振り回し始めた。


「まりぃさん。あなたは一体……!」


鬼気迫るまりぃを見て思わず

内海は身を乗り出した。



「はぁっ!!」



パラスアテナの渾身の一撃がカイエンを襲う!


”こん棒”が足首に直撃した瞬間、

カイエンは不自然なくらい大きく

バランスを崩し大きく距離をとった。



「知奈さん。今の見ましたか?」

「今のは……」

「これは、露呈しちゃったかなw」



距離が離れた事により少しだけ余裕が出来た

まりぃはチラッとねいねを見て微かに笑った。



「天使さん、今の見ましたよね?

 これが私が出来る最大のプレゼント。

 ちゃんと受け取って貰えたかしら」



皆を魅了した荘厳な機体も既に満身創痍。

今の大振りで右手がやられたのだろう。

掴んでいた左腕を地面に落としてしまう。


残り時間もあと僅か。

もう駆け引きしている時間は無い。



「さて、最後に大逆転劇を見せて

 ……さしあげますわ」



女神パラスアテナは大太刀を構える

カイエンに向かって一直線に突っ込んでいく。



「まりぃさん!」



カイエンは正面に大太刀を突き出し、

パラスアテナはかわさず右手でそれを受けて

そのまま右手首は吹き飛んでしまう。


しかしまりぃは更に前に進んで

大太刀を脇に抱える形でガッチリと

固める事に成功した。


「捕まえましたわ!」


大太刀を使いバランスを崩すべく

左右に揺さぶろうとするが、

大太刀から左腕の時と同じく

グィィィン!という音が聞こえ始めた。


この大太刀は細かい刃を超振動で動かして

ノコギリの原理で切断するモードが存在する。


パラスアテナの脇から火花が吹き出てきた。


「くっ!間に合って!」


焦るまりぃだが元々の重量差もあり

思ったように相手を動かせない。


そしてそのまま右腕は切られてしまい、

ダメ押しとばかりに返す刀でそのまま

右前足もやられてしまう。


ここまでやられたら

もう立ち上がる事は出来ない。


そして鳴り響くサイレン。

会場からは2機への惜しみない拍手。



準決勝第二試合はロボバトの

歴史に残る死闘となった。



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【次回予告】

【11月14日更新!】


色々あった準決勝も終わり、

そのままいつもの日常に戻る筈だった。


しかし、まだ1日は終わっていなかった。

物語は大きく動き出す。


次回 推しVロボ第14話

もしかして泣いてた……?


お楽しみに!

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