第2話 私、推しに認知される為にロボに乗って戦います!
「ただいまー。間に合ったー」
知奈が最初にする事はPCの立ち上げ。
そして待機所ページへの移動だ。
画面の向こうには液体の入った大きなカプセルと
その中で眠っている男性がいる。
八月蒴日(ほづみ)・パトラクシェ。18歳。
彼は生体系人造人間である。
15歳までは普通の生活を送っていたが、
大人になる為に“育成ポッド“の中に入り、
皮膚の定着や各種調整の為に数年間を過ごす。
そして、近い将来このポッド生活とお別れして
“外界の人”と直接会えるのを心待ちにしている。
VTuberになったのはその日の為に
外界の流行や状況を知っておきたいからだ。
調整中.
調整中..
調整中...
と動いている文字と液体の中で髪を揺らしながら
眠り続ける八月蒴日・パトラクシェ。
目をキラキラさせながら画面を見つめる知奈。
彼が目覚めるまでのこの数分間さえも
知奈にとってはかけがえの無い時間なのだ。
そして、画面がフェードインで切り替わり、
ほづみ君は目覚めて辺りを見渡し
いつものように静かに話し始めるんだ。
「……この声聞こえてるのかな。おーい。
サンプルさん聞こえる? ボリュームは問題無い?」
視聴者はすぐに反応して「聞こえるよー」「おk」と
いう文字でコメント欄が埋まっていく。
「よかった。今日もこんなに“リサーチ対象“がいる
こんにちはサンプルさん。今日もよろしくね」
癒し系な優しい声に包まれると
今日1日の疲れが一気に吹き飛んでいく至福の時。
幸せ……と呟かずにはいられない。
八月蒴日は半年前にデビューした
個人勢VTuberで登録者は既に5万人を超えた。
中堅ライバーと言っても良いだろう。
配信頻度は週に2~3回。主に深夜配信だけど
他の時間帯に突発配信をはじめる事もある。
その時は泣く泣くアーカイブを見る事になるが
可能な限り生配信で見ると決めているのだ。
…………
「ほづみ君、ロボバトって知ってる?」
いつもは聞く事に専念してあまりコメントを
しない知奈だが、色々あった疲れもあって
思わず書きこんでしまった。
早いスピードで流れていくコメント欄の中、
話の流れを無視して書き込んだワードなんて
一気に流されて終了だろうと思われたが。
「ん? ちょっと待って。気になるコメントが……
あった! ロボバト!」
「えっ!?」
思わず声が出てしまった。
まさかほづみ君がわざわざコメ欄を遡ってまで
私のコメントに反応してくれるなんて……!
嬉しさと驚きでパニックを起こしている
知奈を横に、八月蒴日は高速マシンガンで
ロボバトについて語り始めていた。
全ての始まりである日米ロボット対決。
たどたどしい動きながらも夢にまで見た
巨大ロボット同士の肉弾戦が実現した喜び。
毎年行われているロボバトの過去の
名勝負と毎年上位に食い込む強豪チーム達。
「そうなんだ……ロボバトってすごいのね」
知奈は八月蒴日やコメント欄の話を聞いて
少しずつ興味を持っていく。
そして、次回のロボバトの展望や
期待について語り出した時、
まさかの言葉が飛び出してきた。
「そういえば、次の21世紀枠が凄いらしいね。
噂では工学系でも無い只のアニメ同好会だとか」
!?
「最近のロボバト界隈はお金が絡んだからか
勝敗にこだわった結果、重機化が進んでいて
少し残念に思っているんだよね」
「そこにあえて飛び込んでくるアニメ同好会。
これは間違いなく"ロマン参戦"だから
どんなロボを見せてくれるかとっても楽しみ」
……一体何が起こっているの!?
画面の向こうの光景に只々唖然とする知奈。
何故、正式決定もしていない私たちの情報が
既に出回っているかはこの際どうでもいい。
大事なのはほづみ君がその事を知ってて
凄く楽しみにしているという事実。
「僕は全力でオタクチームを応援していくよ!」
もし私が出場したらほづみ君は私を認知してくれる。
更に応援までしてくれるんだから最高じゃない!
知奈の脳内で妄想が一気に膨らんでいく。
推しに直接認知されるという事が
いかに凄くて幸せな事か!
いてもたってもいられない知奈は
配信終了後、すぐに戸坂会長に連絡した。
「私、ロボに乗ります。いえ、乗せて下さい!!
推しに認知してもらう為にロボに乗って戦います!」
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【次回予告】
あの日から私の状況は一変した。
ロボに乗る事を決めた知奈は
操作方法の習得や訓練を開始する。
しかし、そのマニュアルを見た瞬間
知奈は驚きの事実を知る事になるのだ。
次回。第3話
「これはいくらなんでも厨二過ぎません!?」
8月29日公開予定です。お楽しみに!
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