第1話 これ、私が乗る事を前提として設計されてません!?
それから数日後のお話。
「えっ……えええええええ!?」
サブカルカフェ【エンジェルハイロゥ】の店内に
大きな声が響き渡った。
「頼む知奈、何もいわずこれに乗ってくれ!」
「明さんここで本名出さないでくれる!?」
彼女の名前は水月知奈。
彼女はここで「ねいね」として働いている。
「いつか2人で沖縄行こうと約束した仲じゃないか!」
「どれだけ昔の話してるんですか! 思い出したように
幼馴染ネタを出さないで下さい!」
「ねぇー。どうしたの~?」
2人のやり取りを聞いて同じキャストの
みぅが話に割り込んできた。
「みぅ聞いてよー。いきなりこれ見せられて
これのパイロットになってくれと…」
「うわっ! 凄い、これパワードスーツだ!」
「おっ? あんたロボットいけるクチ?」
「ハイっ大好きです!」
会長とみぅがロボ談義で盛り上がってしまった。
「と、いう訳で」
「ねいねちゃんこれに乗ろっ!」
しまった。みぅはこの手の奴好きだったんだ。
知奈はすこし後悔した。
「勝手に盛り上がらないで! てかこれって…」
知奈はロボの仕様書を改めてじっくり読む。
パイロット条件
・身長150cm以下の細身女性
・体操等をしており体幹や柔軟性がある人
・パルクールしてると更に良し
「これ、私が乗る事を前提として
設計されてません!?」
「ねいねちゃん運動神経抜群だもんね!」
「身近に理想的な奴がいたら当然である!」
どうやら私が乗るのは決定事項になってるらしい。
忘れてた。この人は一度決めたら引き下がらない
厄介なタイプなんだ。困ったな…
どう対処しようか悩む知奈の前に救世主が現れた。
「どうした。なに盛り上がってるんだー?」
「店長! 聞いてくださいよー」
「どうですか店長、これ!」
「ねいねちゃんが乗るんですって!」
店長は会長から企画書を受けとり、
軽く目を通してこう言った。
「面白いねコレ。もしウチの制服を着けて
乗ってくれたらスポンサーになるよ。
勿論ねいねへの特別手当も出すわ」
「ちょ、ちょっと店長!?」
「それいいですね! まさにロマンだ!」
「ねいねちゃんよかったね!」
…この流れはいけない。外堀が見え始めた。
「当然我が同好会からもファイトマネーは出すぞ!」
うっ。
「ねいねは歌って踊れるアイドルに憧れてたよな?」
ううっ。
「意外と目立ちだかりだもんねーねいねちゃんはw」
うううっ。
外堀が凄い勢いで埋まっていく。
「待ってよみんなー!」
最後の抵抗を試みる知奈だが、
みぅの一言がそれを打ち砕く。
「ほら。推しに赤スパチャ投げられるじゃない!」
うううう~っ!
ここでそれ出すのは反則だよ!?
…………
「……少し考えさせてください」
知奈はそう言うのが精一杯だった。
…
……
………
仕事を終えて帰宅途中の知奈は
ヘトヘトになっていた。
「今日は大変な1日だったわ……」
いきなり昔の幼馴染がお店に来たかと思えば
これに乗るんだといきなり計画書を渡されて
周りも勝手に盛り上がってしまうし……
「確かに絶対嫌って訳でもじゃないけど、
いきなり言われても困る……でも……」
知奈は頭をブンブンと横に振る。
「もういい。考えるのはもうおしまい!」
これからの楽しみを考えると
顔は上がるし少し早足にもなる。
「今からほづみ君の深夜配信が始まるんだから!
それ以外の事は考えない!」
知奈は男性VTuberである
“八月蒴日(ほづみ)・パトラクシェ”の
熱狂的ファンなのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます