(256)物乞い

 かれこれ20年ほど東京に住む僕だが、元々は大阪で生活をしていた関西人だ。


 昨日は銀座の顧客に納品があったので、顧客の入居しているビルの近くで車を止めて、車内でおにぎりを食べていると、60代くらいの男が車の窓をノックして僕に声を掛けてきた。


 彼曰く、

「大阪から来たんやけど、電車にカバンを置き忘れてしまって、申し訳ないんやけど、電話代を貸してもらえませんか?」

 という事だ。


 僕は直感した。


 ああ、これはホームレスか何かの物乞いだな、と。


 そう思うのには理由があって、僕も20年前に上京した時は、いわゆるホームレスだったからだ。


 僕はホームレス時代も物乞いをした事は無いが、寒空の下でお金が無くなると、「誰でもいいから、温かい食事代をくれないか」というのは何度も思ったものだ。


 そんな時代があった僕は、小銭入れに入っていた300円を手渡し、「返さなくていいですよ」と言ったのだが、すると男は、


「おおきに! ホンマおおきに!」

 と言ってから、「出来れば、横浜までの交通費も貸してもらえませんか?」

 と続けた訳で。


 ほらね。


 やっぱりそうだ。


 彼の言う事が本当ならば、交通費位なら交番で借りられる。


 なのでそれ以上のお金は渡さずにその旨を男に伝え、彼がペコペコと頭を下げながら去って行くのを見守っていた。


 彼の風貌は決して悪人やアル中等ではなく、至って普通のおじさんだ。


 歴戦のホームレスの様な不潔さも無い。


 けれど、見た目では分からない「困窮」という問題を抱えている訳だ。


 僕自身もそうだったし、今は更にこういう人が増えている気がする。


 何なんだろうな、この社会は。


 株価だけはバブル期を超えたらしいが、社会の実態は貧しくなる一方じゃないか。


 何が悪いのかって?


 そりゃあ、政治でしょ。


 今の国会を見て、「日本の政治は完璧だな!」なんて思う人はどうかしている。


 変えなくちゃな。


 この社会を。


 そんな思いを胸に、今日も執筆しようと思う、今日の僕なのです。

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