(235)しみじみ

 先週、自宅でおでんを作って食べた。


 彼女が下ごしらえをしてくれて、大根などは食べればじゅわっと出汁の味が口いっぱいに広がる。


 味の染みたおでんってのは、なんというか、身体も温まるし五臓六腑に染み渡る感じがする訳だ。


 で、この染み渡る感じを表現するのが「しみじみ」という言葉だったりすると思うのだが、そういえば「しみじみ」というジャンルのファンタジーとかのジャンルを見た事が無い気がするのは僕だけなのだろうか。


「ざまぁ」とか「俺TUEE」とか「ほっこり」「もふもふ」「まったり」みたいな異世界ファンタジーは一通り見た事がある気がするのだが、「しみじみ」とする異世界ファンタジーってのを僕は見た事が無い気がする。


 おでんを食べた時の様な、あの満足感。


 五臓六腑に染み渡る様な充実感。


 まさに「しみじみ」とできる物語ってのは、恋愛物語などには散見される気がするが、それは「欠けた恋心」の隙間を埋める物語だったのではないかと思う訳で。


 しかし、異世界ファンタジーではそういう物語を見た事が無い気もする訳で。


「異世界転生しみじみ系」


 みたいな物語のジャンルがあるとすれば、それはどんな物語なんだろうか。


 そもそも、五臓六腑に染み渡るというのは、ある意味「全ての臓器が欲しているものが提供された状態」なのだと思っている。


 つまり、「しみじみできる物語」というのは、読者の心が欲しているものが満たされた状態になる物語なのだという事なのだろう。


 自分で言っておきながら、「何という高望みだ」とは思うのだが、おそらく全ての読者が一度は読みたいのではないのだろうか。


 心が満たされる様な物語。


 きっとそれが「しみじみ系」なのではと思う僕なのだが、となると、読者の心の隙間がどのようなものなのかを考える必要がある訳で。


 そもそも「異世界系」を好むという事は、「現実世界に期待をしていない」のではないかという仮説を僕は持っている。


 つまり、現実世界が生きづらい世界なので、異世界で幸せな生活をしている主人公に共感したいのではと考えているいう事だ。


 ならば、しみじみ物語というのは、「現実世界に不満があり、その不満を細分化して検証し、その不満を満たしてゆくエピソードで連ねてゆく物語」というのが、しみじみ物語の基幹部分になるのではないかと思う訳で。


 うーむ。


 なんだか難しい話になってしまった気もするが、これはかなりチャレンジングなテーマな気もするぞ。


 という訳で、そんな物語を読んでみたいと思う、今日の僕なのであります。


 そして、そんな物語がどうしても見つけられない場合は、自分で書いてみようと、そんな事を思っている僕なのであります。

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